1.評価の目的
特定非営利活動法人が寄付金無税団体としての公益性を十分に満たす団体であるためには、その活動が特定の政治的ないしは宗教的な立場に偏らずに行われる必要がある。本評価では言論NPOの活動が「非政治性・非宗教性」(注1)を満たすものであることを示すため、前年度に引き続いて2008年度の活動全体について自己評価を行った。
注1)「非政治性・非宗教性」とは特定非営利活動促進法(NPO法)第2条第2項の二に規定された次の要件を満たす活動を行っていないことを指す:A.宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること。B.政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対すること。C.特定の公職の候補者、若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対すること。
2.評価対象
2008年度における言論NPOの活動を評価対象とする。(この評価対象は前年度と同じである。)評価対象
A.「言論活動等」(8つに分類)
(1) 政策評価事業(2008年6月「日本の政治は信頼できるか」アンケート調査と結果公表、2008年7月民主党との政策議論「マニフェストフォーラム」開催、2008年12月「世界の金融危機と日本の進路」討論会(公開座談会方式)開催、マニフェスト評価委員による「今考えるべき経済対策」討論会(公開座談会方式)開催、2009年1月「麻生政権の100日評価」アンケート調査と結果分析と討論会(公開座談会方式開催))(2) 日本の将来像の形成に向けた「アジア戦略会議」事業
(3) 日中での議論のプラットフォーム形成に向けた「第4回東京-北京フォーラム」及びその関連事業(アンケート調査等)
(4) 市民社会の設計と成熟に向けた「非営利組織評価研究会」(田中弥生氏研究室主催)における議論形成への支援
(5) 会員等向けフォーラム(一般フォーラム、メンバーフォーラム、その他アドホックに行われたフォーラムや会議)
(6) ウェブ論壇(HP上で行う言論活動。上記(1)~(6)について行われたものは、それぞれの活動の一環として審査。ウェブ論壇独自のものとしては、工藤代表の見解表明、言論ブログ、その他アドホックな記事)
(7) 出版・広報宣伝(出版は、報告書「第4回東京-北京フォーラム 2008年東京」、冊子[言論ブログ・ブックレット]:「中国人の日本人観 日本人の中国人観」「福田政権の100日評価」「日本の未来と市民社会の可能性」の3点であるが、これらはそれぞれ(1)、(3)、(4)の一環として評価。広報宣伝は、メルマガ、行事等の案内等のうち「言論活動等」に該当する部分。)
B.その他、「言論活動等」の実施に必要な諸活動
会員拡大活動、寄付拡大活動、言論NPOの組織運営など
(注)ここでは、「言論活動等」を次のように定義する。
(1)当該団体の正式な活動として設営する場や当該団体が管理運営する発信媒体上において、設営された場への参加者、社会の特定の層(当該団体の会員等を含む)、ないしは不特定多数の者に向けて発信することを想定して、当該団体関係者あるいはそれ以外の者が行う、①意見表明、講演、報告などの発言、 ②質疑応答を含む討論、③論文などの執筆、④これらの編集。
(2)当該団体以外の者が設営する場や当該団体以外の者が管理運営する発信媒体上において、当該団体あるいは代表者がその名の下に、設営された場への参加者、社会の特定の層(当該団体の会員等を含む)、ないしは不特定多数の者に向けて発信することを想定して行う、①意見表明、講演、報告などの発言、 ②質疑応答を含む討論、③論文などの執筆。
(3)上記(1)の内容を社会の特定の層(当該団体の会員等を含む)、ないしは不特定多数の者に向けて発信する活動。
(4)上記(1)の活動への参加を呼びかけ、場を設営するなど(1)の活動の準備を行い、あるいは議論を設計する活動。
3.評価方法
自己評価は2007年度における言論NPOの全ての事業について、最初に「1)」で説明するネガティブチェックリストによる第1次評価を行う。その要件で「非政治性・非宗教性」を満たすとするには疑わしい事業については、「コンテンツ判定基準」で再評価を行う。こうした2つの評価基準を組み合わせて評価を行った。各評価基準による評価方法は次の通りである。※参:「自己評価の手順/コンテンツ 判定基準」(PDF)1)「ネガティブチェックリスト」による評価
米国IRS(内国歳入庁)作成のガイドラインに基づいて言論NPOが作成した「ネガティブチェックリスト」による客観的評価(「非政治性・非宗教性」を満たすためにクリアーしなければならない項目に対する該当有無のチェック)を基本とする。
言論NPOの2008年度の全ての事業を対象に、このリストの項目毎に評価し、外形上から明らかにその活動が「非政治性・非宗教性」を満たす事業は「○」、「非政治性・非宗教性」を満たさない事業は「×」とした。外形的な判断のみでは評価できない事業は「△」とした。(評価結果の詳細は別紙2参照)
ネガティブチェックリストのチェック項目は「禁止項目」と「注意を要する項目」の2つに分けられる。前者は「非政治性・非宗教性」を満たすためには必ずクリアー(「○」)しなければならない項目で、後者はその要件を満たすのは望ましいが、その要件を満たさないからと言って、直ちに「非政治性・非宗教性」を満たさないとは言い切れない項目である。
「△」とされた事業(例えば別紙2のチェック項目2-1の(1)政策評価事業)であっても、その詳細を更に追加のチェック項目(例えば同表 項目 2-1-1)で検討し、その要件を満たすとされた場合には、ネガティブチェックリストによる対象事業の評価は「○」として、救済することとする。なお、別紙2において、このように追加の項目で更に詳細をチェックした事業は、「△」との混同を避けるため「▽」と表記し、追加項目の行で「○」「△」「×」の評価を行っている。
2)「コンテンツ判定基準」に基づいた評価
ネガティブチェックリストにおいて、いずれの事業も各チェックリスト項目が全て「○」の場合は、2008年度の言論NPOの活動は「非政治性・非宗教性」が完全に満たされているとする。一つでも「×」があった場合は、「非政治性・非宗教性」が完全には満たされていなかったものとする。
ネガティブチェックリストにおける要件で救済されない事業(「△」が一つでもあった事業)が残った場合は、その事業についての評価は「コンテンツ判定基準」に委ねることとする。「コンテンツ判定基準」による評価とは、個別の事業の形成プロセスを、5つの客観的な基準(①目的の明確性、②立場の明確性、③ターゲットの明確性、④コンテンツ(事業)形成に係る方法論の明確性、⑤方針決定に係るガバナンス及び透明性(詳細は別紙3、別紙4参照)により、評価することである。ネガティブチェックリストでは評価できない事業についても、「コンテンツ判定基準」によって、個々の事業の形成プロセスが「非政治性・非宗教性」を満たすと判断できる場合には、最終評価としてその事業の内容自体も「非政治性・非宗教性」を満たすとみなすことができる。
3)自己評価結果の理事会での議決、言論監事による判定を経て、通常総会に提出
以上の評価は、言論NPOによる事後的な「自己評価」であり、これを毎年度、理事会で議決の上、通常総会に提出する。通常総会への提出に当たっては、この自己評価について言論監事による判定を行い、その結果を通常総会に報告する。
4)公表
評価の信頼性を最終的に担保するものは、公開の原則に基づく評価のアカウンタビリティーである。評価の公表は、インターネットなどにより行い、自己評価結果と、その根拠に係る概要、及び、言論監事による判定を公表する。また、公表に際しては、評価結果について疑問等がある場合には評価根拠の公開申請を受け付ける旨を明示し、一般から公開申請があった場合には、ウエブ上に評価結果の根拠をより詳細に公開する。
4.評価結果
1)ネガティブチェックリストによる評価結果
ネガティブチェックリストによる評価の結果、2008年度の言論NPOの活動は、まず、非宗教性では、全12チェック項目で非宗教性は完全に満たしている。その一方で、非政治性については、全18チェック項目で評価した結果、12項目については非政治性を完全に満たした。ただ、6項目については判断がつかず、コンテンツ判定基準に委ねることにした。その内訳は、(1)政策評価事業6項目、(2)アジア戦略会議事業1項目、(3)「第4回東京-北京フォーラム」及びその関連事業2項目、(4)「非営利組織評価研究会」における議論形成への支援1項目、(5)会員等向けフォーラム1項目、(6)ウェブ論壇1項目、(7)出版・広報宣伝1項目である。2)「コンテンツ判定基準方式」による評価結果
ネガティブチェックリストにおいて、判断できないとされた全評価対象分野について、コンテンツ判定基準方式による評価を行ったところ、いずれも「非政治性」を満たしているものとされた。これによって、既にネガティブ・チェックリストで非宗教性が認められたことに加え、そこで判断ができなかったすべての項目で「非政治性」に問題がないとの結論が得られた。
従って、2008年度における言論NPOの活動は全てにわたり、「非政治性・非宗教性」を満たしているものと評価される。
5.今後の課題
■「非政治性・非宗教性」の説明力をより強化するために
言論NPOはこれまでに「非政治性・非宗教性」を明確にするために、自己評価の導入(2005年度)、ウェブサイト構成の原則公開及び参加型ブログを中心としたウェブの全面リニューアル(2006年度)、などの努力を行ってきた。2009年度はこうした公開型で参加を伴う議論作りをさらに進めるために、以下の取り組みを行う。
1)言論NPOが行う議論を「政治と向かい合う言論」など4つの分野に区分し、それらの議論が整理されて一般に公開されると同時に、オープンフォーラムを計画的に行うなど、議論の公開をより重視した活動を行う。これに伴い、2009年7月1日にウェブサイトの全面リニューアルを行う。このウェブサイトは顧客目線に立った構成となっており、分かりやすく、だれもが議論の舞台に参加しやすいものである。
2)マニフェスト評価活動においても評価会議の公開や、5000人規模の有識者アンケートを活用するなど、評価プロセスに参加の視点をより重視する。評価を巡って政党との対話を2009年度も行うが、その際にはインターネット中継などを活用して議論を公開すると同時にウエブから議論に参加できる工夫を行う。
3)「東京-北京フォーラム」は民間主体の議論であり、そのプロセスや議論内容も幅広く公開されている。2009年の第5回フォーラムは大連で行う予定だが、本年度も会場に参加できない人もインターネット会議で会場外から参加できる方法を取り入れる。公式サイトでフォーラムの内容を公開するなど議論の公開性、透明度をより高めていく予定である。
言論NPOの議論作りは有権者の判断材料の提示を目的に行われている。事業の広がりに対してそれにふさわしい人員や体制が十分でないことが、これらの実現の障害になっている。2009年度から資金基盤の多様化を柱にした3ヶ年計画が開始することになっており、安定して事業を行えるような基盤を構築する努力を行う。
以上