参加型・提案型の議論づくりと資金基盤の多様化
言論NPOが議論のプラットフォームとしての役割を担うには、より多くの方が私たちの議論に参加し、そこで得た議論を広く社会に提案するサイクルを回さなければいけません。
平成22年度は、多くの方が言論NPOの議論に参加し、インターネット上での双方向の議論を活発化させるため、ウェブサイトを3月に全面リニューアルしました。
また、議論をライブで放送する「言論スタジオ」を新たに開設し、市民と議論や情報を共有し、意見を交わす試みを開始しました。
この他、「4つの言論」において、フォーラムや座談会の開催時には常に会場の参加者と対話を行い、一般の傍聴者も議論に参加できるよう努めました。またアンケートを定期的に実施して市民の意見を議論に反映させるなど、年間を通して議論づくりとその発信において「市民が参加する」という点を最重要視し、活動を進めました。
もう1つの目標である 「資金基盤の多様化」では、言論NPOの活動を広く市民に支えられたものに転換するため、会員組織や顧客基盤の立て直し、事業収入と寄附の裾野を広げる点を柱に取り組みました。
しかし会員と寄附の拡大の点については、目標達成に向けたPDCAサイクルを回し、資金基盤の多様化へとつなげることが十分に出来ず来年の課題として残されました。
Ⅰ. 市民参加型の質の高い議論づくりをどうすすめたか
言論NPOの議論の目的は、当事者意識を持って日本の社会の課題解決に向かい合い、建設的で質の高い議論を行うことであります。しかもこれらの議論は多くの市民に開かれ、支えられなければなりません。
これらの目標を実現するため、平成22年度は、ウェブサイトのリニューアルや「言論スタジオ」の開設、及び他メディアとの連携を進めました。
1.ウェブサイトのリニューアル
参加型の議論の構築を目標に、ウェブサイト上で双方向の議論が行えるよう3月にホームページの全面リニューアルを行いました。
そして3月11日に起きた東日本大震災からは、震災復興について議論を開始しました。この震災復興に関しては幅広く有識者から発言を求め、各界を代表する約50名の方より意見が出され、ウェブサイト上で公開しました。
さらに、言論NPOの議論づくりに多くの人の提案や意見を反映するために「モニター」制度を創設しました。平成22年度末時点で約200名の有識者の方にご参加いただいています。
新しいウェブサイトでは facebook などを活用し言論NPOに参加する有識者の意見を収拾。東日本大震災後の復興など日本が抱える様々な課題の解決に向け、多くの市民が参加して一緒に考える「議論のプラットフォーム」としての役割をめざしている。
2.「言論スタジオ」の開設
平成22年度は、言論NPO議論づくりの核として「言論スタジオ」を開設しました。市民がきちんとした情報や議論を共有できるよう「言論スタジオ」は言論NPOの議論を動画で中継しています。しかもリアルタイムで視聴者から意見を集めながら議論を展開し、市民参加型の議論の舞台としての役割をめざしています。
東日本大震災後には、毎週震災に関連する様々なトピックについてその分野の専門家を交えながら議論を中継しています。そして放送した議論はすべてをテキスト化し、ホームページ上で公開すると同時に、言論NPOに登録された約一万人の顧客へメールニュースとして議論を配信しています。
3.メディアとの連携
言論NPOの発信力を高め、より多くの市民に議論を提供するために、本年はウェブサイトや「言論スタジオ」と並ぶもう一つのチャネルをつくる目的でメディアとの提携に着手しました。
平成22年10月よりJFN系列で放送を開始したラジオ番組「ON THE WAY ジャーナル」では、各界を代表する有識者を交え日本の政治や社会が抱える様々な問題について議論を行い、平成23年3月末までの半年間で26回放送しました。
また番組内で行われた議論は、すべて言論NPO内の「4つの言論」と連動し、ホームページでは動画とテキストを加えて公開しています。
Ⅱ.「4つの言論」をどのように展開したか
「政治と向かい合う言論」では、政府の動きをウォッチし、5月に民主党政権9ヶ月間のマニフェスト主要項目の進捗状況についての評価を出しました。
続けて、民主党政権の実績評価と民主党・自民党のマニフェスト評価を発表し、菅改造内閣発足後100日目にあたる12月25日には「菅政権の100日評価」を記者会見で発表しました。
また、これらの評価の発表と同時に有識者に対するアンケートを実施しました。鳩山首相が退陣した6月2日の翌日に「民主党の実績評価」及び「日本の政治」に関するアンケート、そして「菅政権の100日評価アンケート」を実施し、いずれも500人以上の有識者から回答を得ました。
政策評価・マニフェスト評価時には常に有識者へのアンケートを実施。評価の中身に反映させた。
また、評価の公表時には常に記者会見を実施。広く多くの市民に伝えるよう努めた。
「世界とつながる言論」では8月に「第6回東京-北京フォーラム」を開催し、延べ2,500人もの方が参加、規模と影響力を大幅に発展させました。
初めて円卓会議方式で実施した安全保障対話では日中が抱える課題を専門家同士で深く掘り下げて議論、大きな反響をよびました。また「オープンで参加型」の議論の構築を目標に、すべての会議において会場の参加者から意見を集め、同時にインターネットで中継するなど傍聴者とパネリストとが一体となった議論づくりに努めました。
日中の民間対話「第6回東京-北京フォーラム」には日本の政府首脳を含めた100名がパネリストとして出席し、会場を巻き込んだ議論を行った。
「市民を強くする言論」では、「強い市民社会」をつくることを目標に、市民社会を担う非営利組織間に質の競争を起こすため、その望ましい非営利組織像となる「エクセレントNPO」の評価基準を2年がかりで開発しました。この評価基準は11月に記者会見で発表すると同時に 「エクセレントNPO」の評価基準のブックレットも発行しました。
この評価基準の選定にあたって、市民とダイレクトに対話をしながら、市民社会が抱える課題や担うべき役割について意見交換を行ない、平成22年4月には「強く豊かな市民社会を考える」対話集会を開催しました。
この評価基準の普及と非営利組織が自身の経営診断を行うことをサポートするために、平成23年1月には「『エクセレントNPO』をめざそう市民会議」を発足し、言論NPOはその事務局を担うことになりました。またこの市民会議の事業を進めるためにフォーラムや座談会「望ましい非営利組織とはなにか」を開催しました。
日本が抱える課題の解決やこれからの日本の将来像と方向性について市民が一緒に考えるための参加型、提案型の議論を「次の日本をつくる言論」で実施する予定でしたが、本年度は、ウェブサイト上での議論参加の仕組みづくりが完成しなかったこともあり、提案型の議論を具体的にすすめることが出来ず、来年度以降の課題となっています。
Ⅲ. 資金基盤の多様化にどう取り組んだか
言論NPOの議論づくりを安定的に支える資金基盤を構築するため、これまでの大口寄附に依存していた収入基盤をより多様化し、会費・寄附・事業収入の3つがバランスのとれた資金基盤をめざしています。
そのため、平成22年度は、会員組織や顧客基盤の立て直し、そして個人寄附と事業収入を増やすことに取り組みました。
1.会員組織・顧客基盤の立て直し
平成23年11月の設立10周年を前に、本年度は新規の会員拡大に努めると同時に、会員組織の機能を活発化するため、既存の体制の立て直しに取り組みました。
まず会員のデータベースの整備をすすめ、会員の方々に定期的にニュースや案内を配信すると同時に、言論NPOの議論づくりや組織運営に加わっていただき、既存の組織の機能の活性化を図りました。
しかしながら、長期間の会費未納者への処置を行い、組織を一から見直した結果、新規会員の増加数を含めても、昨年度より少ない基幹会員52名及び法人会員8社、その他一般会員47名及び学生会員1名の合計108名となりました。今後どのように新しい会員を大きく増やしていくかが課題となっております。
また、22年度は言論NPOの活動に参加している方や関心がある方を中心とした顧客基盤を抜本的に整理しました。
会員と同様に顧客データを徹底的に整理、更新し、言論NPOの活動内容や議論の中身が多くの方に定期的に届くしくみを作り上げました。その結果、平成23年3月末時点でデータベース登録者を5,382名へと増強させました。
2.個人寄附の拡大
個人からの寄附を広く集めるため、ウェブサイト上のすべての議論において寄附を募るつくりに変え、議論に共感した個人に寄附を訴える仕組みに改めました。 また、個人が寄附をする際の手順や寄附の使途、税制面でのメリットなどについての分かり易い説明を加え、ウェブサイトを通した寄附の拡大に努めました。
ウェブサイト以外でも、年間を通して各種イベントの参加者、メールニュースの送付や案内をする際にダイレクトに寄附を募りました。
このような取り組みの結果、寄附金の総額は昨年度よりも多い192,042円になりましたが、資金基盤としては未だ脆弱な額であり、来年度は個人寄附の募集をダイナミックに展開する必要があると認識しています。
3.事業収入の獲得
事業収入を拡大させるため、本年度はフォーラムの開催や書籍の出版、そしてメディアへのコンテンツ配信に取り組みました。
まず、フォーラムの開催に関して、「4つの言論」内の議論に連動したフォーラムを6回実施、出版については、『「エクセレントNPO」の評価基準~「エクセレントNPO」を目指すための自己診断リスト ―初級編―~』を11月30日に発行し、平成23年3月31日までの4ヶ月間で約1900部販売しました。
しかしフォーラム・書籍事業共に動いてはいるものの、これらの事業から得る収入が言論NPOの資金基盤を支えるモデルとして大きく機能したとは言えず、来年度は定期的な開催や書籍の出版だけに注力するのではなく、ここから安定した資金を得る仕組みへと発展させる必要があります。
一方で、本年10月よりスタートした他メディアとの議論提携において、言論NPOが番組のコンテンツを制作し、その企画・製作費として収入を得るモデルを作り上げ、事業収入を得る分野を拡大しました。
Ⅳ.平成22年度の組織運営
1.言論NPOには、日本の将来に対して真剣な議論形成を求める民間経営者、官僚、エコノミスト及び多様な分野の学者・研究者など会員以外の方も含めて約500名が個人の資格で活動に参加しており、議論形成や成果報告あるいは提言の作業に協力し、あるいは携わっていただいています。
2.本年度はアドバイザリーボードの組織を9名体制に大きく発展させ、小林陽太郎氏、宮内義彦氏、佐々木毅氏ら従来のメンバーに加え、宮本雄二氏(前駐中国大使)、増田寛也氏(元総務大臣)、武藤敏郎氏(前日銀副総裁)が加わり、隔月で開催されるアドバイザリーボード会議を中心に活動の助言役として言論NPOの活動に参加していただいています。
3.平成22年度、理事会は計5回開催し3月10日には拡大理事会として、理事会にオブザーバーとして会員が参加する形で実施し、平成23年度以降の活動の進め方について意見を交わし、会員の方が言論NPOの活動において中心的な役割を担っています。
そして、本年度は理事会に加え、言論NPOのメンバーを中心とした企画会議を定期的に開き、その会議で言論NPOの運営方針やコンテンツの作り方について議論を交わしながら進めました。
4.平成22年3月末現在で理事8名、監事1名、言論監事2名、会計監事1名、常勤雇用者5名、アルバイト3名の計20名に加え、委託業者、学生インターンをはじめ多くのボランティアの参加を得て、事務所運営及び言論活動の展開を行っています。
平成22年度活動記録
総 会:第9回 平成22年6月26日
理事会:第47回 平成22年6月16日
第48回 平成22年7月5日
第49回 平成22年12月13日
第50回 平成23年2月9日
第51回 平成23年3月10日
アドバイザリーボード会議:第1回 平成23年1月20日
第2回 平成23年3月18日
平成22年
4月
【座談会】―鳩山政権の半年を考える― マニフェスト型の政治は実現したのか
非営利組織評価基準検討会
「エクセレントNPO」評価基準発表 記者会見
「強く豊かな市民社会を考える」対話集会
「第18回メンバーフォーラム」(スピーカー:石破茂氏)
5月
非営利組織評価基準検討会
「第19回メンバーフォーラム」(スピーカー:与謝野馨氏)
「第6回東京-北京フォーラム」第2回実行委員会
鳩山政権の実績、並びに日本の政治に関するアンケート実施
6月
非営利組織評価基準検討会
「エクセレントNPO」をめざそう市民会議 記者会見
「第6回東京-北京フォーラム」日中共同世論調査実施
「第6回東京-北京フォーラム」第3回実行委員会
民主党/自民党のマニフェスト評価発表
民主党政権9ヶ月の実績評価発表
【インタビュー】「9党政調会長にマニフェストを問う」実施
日本の政治に関する緊急有識者アンケート結果公表
7月
2010年参議院選挙候補者アンケート実施
8月
「第6回東京-北京フォーラム」日中共同世論調査記者会見
「第6回東京-北京フォーラム」開催
9月
「第6回東京-北京フォーラム」総括実行委員会
10月
JFN系列ラジオ番組「ON THE WAY
ジャーナル『言論のNPO』」放送開始
「菅政権100日評価」緊急アンケート実施
11月
『「エクセレントNPO」の評価基準 ― 初級編―』ブックレット発行
12月
「言論NPO9周年を祝う会」開催
「第6回 東京‐北京フォーラム 」報告書発行
言論NPOウェブサイト英語版リニューアル
「菅政権の100日評価」公表
平成23年1月
「『エクセレントNPO』をめざそう市民会議」主催
市民会議フォーラム
2月
【座談会】「望ましい非営利組織とはなにか」
「第7回 北京-東京フォーラム」幹事会
3月
「第7回 北京-東京フォーラム」第1回実行委員会
【緊急インタビュー】「被災地のため、僕らは何をするべきか」
【座談会】「被災地の救済と復興、市民に何ができるのか」