言論NPOは平成23年11月に創立10周年を迎えました。その節目で私たちは言論NPOの活動内容を原点に立ち戻って全面的に見直しました。
その結果、私たちは、有権者の立ち位置と健全な輿論でこの国の政治を変えるためにも、国内外に向けて新しい事業に取り組むと同時に、その事業を安定的に実現できる組織基盤をどうしても確立しなければと考えました。
そのため、私たちは新しい「3年計画」に取り組むことにしました。平成24年度はその初年度となります。
次の10年に向け言論NPOを立て直す理由
新しい計画に取り組む理由は大きく言って2つあります。
1つは、昨年度、言論NPOは米国・外交問題評議会が提案し発足した世界20団体のシンクタンク会議(「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」に日本から選ばれたことです。
国際社会の課題に取り組み、日本の主張を世界に伝えるため、中国と8年間実施して来た民間対話に加え、国際社会での活動をさらに向上させなくてはなりません。
そして、日本の未来や民主主義の運営に危機感が広がっていることです。
私たちはこれまで、有権者との約束に基づく政治を実現するため政党のマニフェストや政府の政策実行の評価を実施してきましたが、今のままの活動ではこの国の民主主義を機能させることに限界があることもはっきりとしました。
その背景には、私たちが評価すべき政党政治自体が機能不全となり、課題解決に取り組めないだけでなく、この国の未来自体が描けなくなっていることがあります。私たちの議論は、こうした状況を実際に変える役割を果たすものでなくてはなりません。
私たちが世界有数のシンクタンク会議に日本から選ばれたのは、言論NPOが日本では唯一の、非営利で中立、独立のシンクタンクだからです。そして、有権者や市民の立ち位置に立って、健全な輿論をつくるという、私たちのミッションが世界で高く評価されていることも分かりました。
しかし、現在の言論NPOの組織は明らかに非力で十分なスタッフも確保できない状況で多くの事業が行われています。この状況は次の10年に向けて立て直さないと、私たちに期待されている役割は実現できない、と考えました。
この好機を活かし、内外の責任にしっかりと応えるためにも、言論NPOの議論が安定的に行われる組織に立て直し、中立で独立、非営利のシンクタンクとして完成させないとなりません。それが次の3年に向けた私たちの不退転の目標となります。
言論NPOの3年後の目標について
言論NPOの3年計画は、「3年以内に中立、独立、非営利のネットワーク型のシンクタンクを完成させる」ことが目的になります。
この3年間の間に、私たちは、言論活動が継続的、安定的に取り組める組織や資金基盤や多くの有識者が集まる会員基盤の構築に計画的に取り組み、それを完成させないとなりません。
そして、この組織基盤の立て直しこそ、この3年間で全てに優先して取り組むことにします。
同時に、現状の日本の混迷と世界の変化に対応するために、「4つの言論」をそれぞれ発展させ、日本に未来に向けた目に見える変化を作り出す、より影響力と発信力があるものに向上させようと、考えています。
そのため、今年度を初年度とする「3年計画」に戦略的に取り組んでいきます。
「4つの言論」を次の3年でどう発展させるのか
私たちは、これからの3年間、過去10年の実績を踏まえて、「政治に向かい合う」「次の日本をつくる」「世界とつながる」「市民を強くする」ための4つの言論領域において成果の向上を目指します。
そのため、主要事業として次の4事業にこの3年間で取り組みます。
最初に、政策軸に基づく政治家評価のための作業を開始します。政策軸に伴う議論は可能な限り公開し、それを政治家に提案すると同時にその結果を有権者にフィードバックします。
次に、国内や世界の課題解決に向けた継続的な参加型の議論づくりを行い、その内容を多くのチャネルで公開し、日本の輿論形成で主体的な役割を果たします。
3つ目に、世界の課題解決と日本の主張を世界に発信します。
アジアや世界における民間対話の舞台を作り、日本の考えや意見を恒常的に世界に届ける仕組みを完成させます。
最後に、 「強い市民社会」を目指し、非営利の世界に質の向上を促します。
組織評価に耐えられる非営利組織を育てるための、エクセレント評価基準に基づく年間表彰を定着させ、評価基準の普及を図ると同時に、市民社会に関する様々な議論の舞台を運営します。
3年後に言論NPOの組織をどう実現するか
こうした事業を安定的に進めるためには、それを支える組織体制とその基盤を立て直さないとなりません。
これらの事業を支える3年後の言論NPOの組織の姿は別図のようになります。
3年後の言論NPOの組織は、法人寄付者100社、個人のメンバーは300人、一般の会員(サポーター)は1200人を目指します。それを支える事務局の体制は約20人のスタッフ(現状は5人)を考えています。
これは私たちが活動を安定的に進めるために不可欠の最低の水準であり、こうした基盤を3年間で段階的に構築することで、私たちが進める「ネットワーク型のシンクタンク」を完成させようというものです。
私たちが目指すシンクタンクは研究員などを抱える一般のシンクタンクとは異なり、多くの有識者とのネットワークを活かしながら活動を行うものです。
そうした幅広いネットワークを活用して、継続的に質の高い議論を行い、内外に問題提起できる場を運営し、国内では市民と有識者をつなぐ議論の舞台をつくるとともに、また議論の世界発信も強化しなくてはなりません。
そのため言論NPOのメンバーや会員の方が様々な形で活動に参加し、協力をいただける組織運営を行います。言論NPOの事務局はそうした活動を機能させるものでなくてはなりません。
平成24年度の組織体制の整備方針
平成24年度は、「3年計画」の初年度として、会員組織と組織基盤の立て直しを図り、資金基盤の多様化と拡充を最優先で取り組みます。
そのため、大口企業支援5社(現在3社)、法人寄付60社(同40社)、メンバー(基幹会員)100名(同70人)、一般会員300名(同80人)からなる組織体制を実現し、3年後の目標に向けて確実に基盤を増やします。また安定した事業運営を提供できる事務局体制を確保するため、事務局体制の立て直しを行います。
また、言論NPOの活動を持続的に発展させるために会員組織が最重要との認識のもと、この活動のミッションに共感し、ともに活動に参加する会員の活動への参加や交流の機会を増やし、会員組織としての機能を順次整えます。
1.会員組織の立て直し
a)会員ケア/会員サービスの充実・差別化
今年度は、会員間の交流を図ることを目的に、アドバイザリーボードをゲスト講師に迎えた講義を軸にした「会員交流会」を5月よりほぼ隔月ごとに開催します。また、8月以降は、メンバー(基幹会員)を対象とした「メンバーフォーラム」を定例化して開催し、メンバーがこの活動に参加し、メンバー同士の交流を深める場を積極的に設けていきます。こうした会員間の交流の場は来年度以降も順次拡大させていきます。 また「言論スタジオ」や各種勉強会において会員がコンテンツ運営に参加できる仕組みを導入します。また会員限定サイトの運営に着手します。 上記の会員組織活動を含めた言論NPOの最新情報を掲載した会報を四半期に一度発行し、会員にお届けします。またファンドレイズ・イベントとして位置付けた設立11周年イベントを11月頃に開催し、会員はじめ各界の協力者に参加を呼びかけ、活動報告と今後の展望などについて説明する予定です。b)会員拡大
会員拡大の目標を、メンバー(基幹会員)を100名、一般会員を300名と定め、今年度でこれを達成すべく取り組みを行います。この会員の拡大には、メンバーや会員の方にも協力していただく他、言論NPOの活動を深く理解してもらうための「活動報告会」の紹介や言論NPOの活動の説明会を定期的に開催する他、ボーナス期である6月、12月に会員拡大のためのキャンペーンを行う予定です。 また、言論NPOの登録者であるメイトの拡大も意識的に取り組んでいきます。
2.組織基盤の立て直し
今年度は、アドバイザリーボードのメンバーを拡大発展させるほか、アドバイザリーボード会議を半年に1度、理事会を四半期に開催するなど定例化し、言論NPOの活動方針を絶えず見直しながら実行していく体制を整えます。
また、アドバイザリーボードをリーダー格にし、メンバーを中心とした「有識者ネットワーク」の拡大と深化に順次取り組み、それぞれ言論NPOの事業戦略やコンテンツ展開について可能な限り、メンバーや会員の参加と協力を得ながら進めていきます。
5月からは、ほぼ2カ月に1度、「アドバイザリーボードと会員交流会」を実施します。また、8月以降、昨年度まで行ってきた「メンバーフォーラム」を、内容を刷新して再開する予定です。こうした組織運営や議論作りを安定的に展開するためにも、組織のマンパワーを強化すべくスタッフの増員を図る予定です。
【組織図】
4.資金基盤の構築に関して
言論NPOの資金基盤は3年後には(1)寄附(会員としての拠出金)を中心に、(2)助成金、(3)事業資金の3つをバランスよく確保出来る体制を目指します。24年度はこの中で年間目標に基づき寄付に重点を置いて取り組みます。この寄付には法人寄付と個人寄付がありますが、現在の法人寄付は、中国事業への特別寄付の比重が大きいため、言論NPOの活動全般への法人寄付に注力し、法人寄付と大口寄付に向けた取り組みを進めます。この場合、「4つの言論活動」のそれぞれの目的に基づいて極め細かい寄附集めや助成財団への申請を行います。
個人寄附の拡大については、言論NPOの登録者(メイトなど)を増やすと同時に定期的かつ継続的に寄附集めに取り組みます。6月、12月のボーナス時期にあわせてキャンペーンを行い、大々的に寄附を呼びかけます。また、11月には設立11周年パーティーを開催し、会員やコンテンツ協力者に対し、資金調達活動への協力を呼びかけます。また、コンテンツ読者がミッション賛同後に寄付をしやすいようにウェブサイトの構造を改定します。
5.事業による資金の多様化
言論NPOは、 資金基盤を多様化させるため、事業収入を中長期的な組織収入のもう一つの柱と位置づけております。今年度はその初年度としてその可能性を検討します。今年度は、言論スタジオなどの企画と連動させながら、年後半から一般の方が参加できるオープンフォーラムを開催しフォーラム収入を増加させると同時に、こうしたコンテンツを書籍化することを目指します。
さらに、コンテンツ配信料の収入化にも取り組んでいます。JFN系列のラジオ番組「On The Way Journal」の他、インターネットメディアなどへのコンテンツ配信を通じて、安定的に収益化できる仕組みづくりの可能性を探ります。
「4つの言論」に今年、どう取り組むか
1.政治に向かい合う言論/次の日本に向けた言論
言論NPOは、次の日本をつくるためにも、今、政治に向かい合うことが最重要課題であると考えます。民主主義を機能する、ということは有権者が自らの代表者を選び、その代表者(政治家)が課題解決に取り組む、その結果を有権者が判断する、というサイクルが実現しなくてはなりません。
しかし、政治と有権者との関係が希薄になり、政党自体が機能しない現状では、①有権者が課題を自ら決断する、②政策を軸に有権者が政治家を判断し、政策を軸に政党を形成するような、政治の変革が起こす、③民主主義の様々な仕組み自体を有権者が自ら考え、必要ならそれを変えて行くような動きを起こす、ことが大事だと私たちは考えています。
言論NPOは、こうした日本の課題解決と民主主義そのものの仕組み、さらには政党政治を立て直すための、開かれた議論を今年開始します。
また政治家自体の評価や政治家への提案など有権者側からの政策を軸とした提案型の議論作りにも着手します。
これらの議論作りは言論スタジオを軸に行われ、公開されたフォーラムの開催や他メディアとの連携を進めます。
2.世界に繋がる言論
言論NPOは、世界が共通して立ち向かうべきグローバルアジェンダに対して議論を展開していきます。同時に、日本が当事者として係る外交政策や世界への貢献について、日本の主張を議論してまとめ、積極的に国際社会に発信してきます。
今年は、「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」のチャネルを活用し、マルチな民間外交を展開すべく、国際社会と意見交換し、提案を行っていきます。
また、アジアにおいては、今年の「第8回東京-北京フォーラム」を成功させるとともに、日中民間対話の経験と実績を踏まえて、 同フォーラム開催計画10回の全回が終了するその後の平成27年を見据えて、アジアの未来に向けた新しい対話づくりの準備に着手します。
また、言論スタジオで外交分野の議論を活発化させるためにも、平成22年に開設した英語サイトでの発信力をさらに高め、世界に対する議論の発信を強化します。また、 新たなイニシャティブとして、日本の世界への情報発信の基盤となるプラットフォームづくりを事業として計画し、年内に実施することをめざします。
3.市民を強くする言論
平成24年3月に創設された「エクセレントNPO」年間大賞事業を契機に、組織評価に耐えうる非営利組織をつくるための評価体系の普及活動を行うとともに同事業の継続にとりくみます。
さらに、言論スタジオで行う「市民を強くする言論」動画コンテンツを地方の中核的な非営利組織や支援組織などに提供するなど、言論NPOの市民社会を強くする活動を日本全国に広く訴求し、地方・地域とのネットワークを強化していきます。
4.議論の安定的発信と影響力の拡大について
健全な輿論の形成を進めるためには、私たちが考えなくてはならない課題について、質の高い議論を継続的に行い、それらがより多くの人に伝わる必要があります。
昨年から実施している言論スタジオは、「4つの言論」を基に2000人の有識者のアンケートを元に中継方式で議論を行い、その内容は約1万人の有識者にテキストで送付する、という形で発信をしましたが、今年もこの言論スタジオを定期的に行うと同時に、他の新聞やインターネットメディア、ラジオなどメディアとの連携も進め、発信を強化します。
また、ここでの議論をより広く発信するためにソーシャルメディアの活用を強化すると同時に、公開型のフォーラムや出版物との連携も検討します。
英語版での議論発信もより強化する
昨年から、言論NPOの議論の一部を英語版の発信に着手しましたが、より定期的に英語での議論発信の可能性を追求します。またこれらの英語コンテンツは、日中対話やCoCの世界のシンクタンク会議にも働きかけ、より多くの世界の有識者に言論NPOの議論が伝わるようにします。