平成29年度はそのスタートの年として作業を開始した1年となりました。
まず、このカウンシルの中核事業となる「世界の課題解決」、「アジアの平和構築」、「民主主義」の3事業で、2020年を最終年度に具体的な目標を提示し、そのための取り組みを開始しました。
今年で2回目となる3月の「東京会議」では、世界10カ国のシンクタンクの代表が集まり、30年のG7議長国であるカナダ政府に緊急のメッセージを提案しました。世界が直面する課題を、東京を舞台に世界のシンクタンクと議論を交わし、それを世界に発信するという「東京会議」のサイクルは回り始めました。
「アジアの平和構築」については、2020年に北東アジアに平和秩序を構築に向けた多国間の対話メカニズムを発足させるため、「『アジア平和会議』準備会議」を5月に立ち上げ、作業を開始しました。北朝鮮情勢が緊迫化する中、平成30年に予定していた「日米対話」を1年前倒しで10月に施すると同時に、平成31年に予定していた日米共同世論調査を2年前倒しし、メリーランド大学と共同で北朝鮮に関する世論調査を、12月に実施しました。
また、「民主主義」に対する取り組みでは、世論調査や有識者調査を実施し、国内外の民主主義や政党政治の現状や課題などを明らかにし、9月にはアジアの民主主義に関する世論調査を日本、インドネシア、インド、マレーシア、韓国の5カ国で実施しその結果を公表すると共に、その調査結果を基にアジアの民主主義国家の有識者と民主主義の課題について対話を行いました。さらに、言論NPOが16周年を迎えた11月21日には、アメリカやインドネシアなどから世界の有力者を集めて、「民主主義の試練にどう立ち向かうか」をテーマに議論を行いました。
10月の衆議院選挙では、マニフェスト評価や安倍政権実績評価に加え、主要5政党の政策責任者との対話を公開しました。
こうした活動は多くのメディアに取り上げられ、1年間で国内外のメディアに407件取り上げられました。特に、中国との世論調査や日米との初めての共同世論調査結果の公表した12月には、この一か月だけで、NHKなどの全国ニュースを始めて279件の報道となり、国内外で多くの話題になりました。
以上のように、2020年のカウンシル化の中核事業となる3つの事業の全てにおいて、予定を上回る形で大きく動き出した1年となりました。
リスク管理の強化、組織運営の立て直しを優先に取り組んだ
ただ、平成29年度に最も重要な柱に据えた会員組織の運営強化については不十分な取り組みとなりました。一部の週刊誌で、言論NPOに対する一方的なストーリーに基づく事実無根の捏造記事が掲載されたからです。
これに対して、言論NPOとしての公式見解を7月21日に公表すると同時に、株式会社文藝春秋を提訴しました。さらに、この問題の原因究明や抜本的な解決のために、8月30日、第三者などで構成するコンプライアンス委員会が発足し、リスク管理や組織ガバナンスの面での脆弱性がこうした問題を起こしているとの判断から、同委員会の提案に基づき、9月以降、組織ガバナンスの強化に取り組みました。
会員運営についてはモーニングフォーラム、政策勉強会、その他オープンフォーラムの開催に取り組みましたが、組織ガバナンスの強化に向けた改善を優先したことで、29年度の事業計画で掲げた言論NPOの会員組織運営の強化や、カウンシル方式の移行に向けた組織基盤固めは道半ばとなっています。
私たちは29年度に途中になった会員運営などの組織固めを30年度に引き継いで開始したいと思っています。
1.3つの中核事業に取り組み、大きく動いた平成29年度
平成29年度は、「世界の課題解決」、「アジアの平和構築」、「民主主義」の3事業を中核に据え、28年度に築き上げた世界を代表するシンクタンクとネットワークを更に拡大強固なものとして、世界に向けて発信する言論NPOとしての活動に力を注ぎました。2017年、世界における言論NPOの知名度と実績は大きく拡大し、日本を代表するシンクタンクの一つとしての地位を不動のものとしつつあります。
世界10カ国のシンクタンクトップが議論し、G7に緊急メッセージ
言論NPOが、28年度に立ち上げた世界10カ国のシンクタンクのトップが参加する「東京会議」の2回目の会議が、平成30年3月9日から11日の3日間にわたって開催されました。
第2回会議には、多国間主義に基づく国際協調や、民主主義や自由という規範を尊重し守る牽引役になるべきだという強い期待から、G7の議長国であるカナダ政府に緊急のメッセージを提案しました。そこには、「持続的で包摂的な世界を作り出すためにも、それを推進できる強靭な民主主義を国内で作り上げるしかない。こうした取り組みは市民社会の広い支持に支えられるべきものだ」と書き込みました。
今回の会議には、400人の聴衆が会場に集まったほか、言論NPOのホームーページで、日本語と英語で議論の内容が発信されると共に、公開セッションはインターネット中継も行いました。その結果、今回の「東京会議」は、テレビや全国紙をはじめ、メディアで取り上げられました。また、参加した各シンクタンク代表者へのインタビュー記事がオピニオン面で大きく掲載されるなど、日本国内における世界課題の言論空間形成に大きな役割を果たしました。(Web6件、全国紙・通信社6件、テレビ2件)
◆出席者:
【アメリカ】ジェームズ・ゴーリアー(外交問題評議会上級客員研究員)
【シンガポール】オン・ケンヨン(S.ラジャツトナム国際研究院副理事長)
【イタリア】エットーレ・グレコ(イタリア国際問題研究所所長)
【インド】サンジョイ・ジョッシ(オブザーバー研究財団所長)
【インドネシア】フィリップ・ベルモンテ(戦略国際問題研究所所長)
【カナダ】ロヒントン・メドーラ(国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁)
【フランス】トマ・ゴマール(フランス国際関係研究所所長)
【ブラジル】カルロス・イヴァン・シモンセン・レアル(ジェトゥリオ・ヴァルガス財団 総裁)
【ドイツ】ギッタ・ロースター(ドイツ国際政治安全保障研究所会長特別補佐)
【日本】工藤泰志(言論NPO代表)、小野寺五典(防衛大臣)、石破茂(衆議院議員)、川口順子(明治大学国際総合研究所フェロー)、香田洋二(元自衛艦隊司令官)、西正典(元防衛事務次官)、藤崎一郎(日米協会会長、元駐米国大使)、宮本雄二(元駐中国大使)
【オブザーバー】
陳小洪(中国/国務院発展研究センターシニアリサーチフェロー)
劉 鳴(中国/上海社会科学院国際関係研究所所長)
尹徳敏(韓国/韓国外国語大学校主席教授) 、文聖黙(韓国/国家戦略研究統一戦線センター長)
北東アジアの平和構築に向けて大きく動き出した1年に
平成29年度は、2020年に北東アジアに平和秩序を構築するための多国間の対話の舞台を発足させるという目標を実現させるため、「『アジア平和会議』準備会議」を立ち上げるなど、北東アジアの平和構築に向けて大きく動き出す1年となりました。
同会議において、①本準備会議が、日中、日韓、日米の安全保障の対話の推進役になること、②日中平和友好条約締結40周年となる2018年に、日中両国がこの地域の平和と発展に「厳粛な責任」を果たすため、「平和宣言」(仮称)を取りまとめる努力を行うこと、③北東アジアの平和構築に向けて、多国間の対話の枠組み作りに向けて準備を始めることが決定されました。その後、北朝鮮の問題が急速に大きくなる中、2018年に予定していた「日米対話」を1年前倒しで10月に実施しました。対話の中では、米国内で北朝鮮に核開発の共有する目標設定で、米国と日本との認識の差も明らかになりました。
さらに2017年10月27日には、アメリカを加えた形で「北朝鮮の核脅威と北東アジアの平和を考える」をメインテーマに日米中韓4カ国の対話を東京で開催しました。当日は会場に200人聴衆が参加し、インターネット中継を行いました。
さらに、平成31年に予定していた日米共同世論調査を2年前倒しし、メリーランド大学と共同で北朝鮮に関する世論調査を実施しました。この調査結果は2017年も差し迫った12月28日に公表されましたが、調査結果は多くのメディアで取り上げられ、日本国内では12月だけで279件の報道がなされました。さらに、2018年1月には米国ワシントンのブルッキングス研究所で共同世論調査結果に関するワークショップが行われましたが、ケーブルテレビとラジオで全米に中継されたほか、会場には150人以上のメディア関係者や専門家がつめかけ立ち見が出るほどでした。
日中・日韓の対話も、北東アジアの平和を軸に展開
7月に行われた「第5回日韓未来対話」には、日韓両国から約40氏が議論に参加し、会場には200人の聴衆が集まりました。さらに、公開セッションについてはインターネットで中継を行いました。
朝鮮半島情勢が緊迫化する中、日韓両国の相互理解、信頼醸成、そして両国が協力してこの地域の問題に取り組むことがどうしても必要との認識から、今回の日韓未来対話では、日韓両国の専門家が公開の場で、北朝鮮の核問題に真剣に向かい合いました。
特に今回の非公開対話では、日韓両国の安全保障関係者18氏が議論を行いました。
日中国交正常化45周年だった平成29年12月に北京で開催された「第13回東京-北京フォーラム」では、「より開放的な国際経済秩序とアジアの平和に向けた日中協力」をメインテーマに議論が行われました。国際秩序や世界の課題について、日中間で真正面から議論が行われたことは初めての試みでした。さらにこのフォーラムは、中国共産党大会の直後に行われた大規模な対話として世界から注目されました。
対話には両国を代表する約90氏が出席し、延べで2000人を超える人が会場に詰め掛け、最終日には、「北京コンセンサス」を合意し閉幕しました。今回合意した北京コンセンサスでは、「我々は朝鮮半島の非核化の目標を堅持し、新たな核の脅威の出現を許さず、平和的手段によって脅威を取り去り、争いを解決するという原則を共有する。」という形で、北朝鮮の完全非核化の目標堅持も盛り込まれた。
今回のフォーラムや世論調査結果は、多くのメディアで取り上げられ、日本の新聞・通信・テレビで50件、中国の新聞・テレビ・ラジオで88件の合計138件が取り上げられるなど、日中両国で大きく報道されました。
民主主義を強くするための取り組み
アメリカでのトランプ大統領の誕生、欧州各国でのポピュリスト政党の台頭や、権威主義的なリーダーによる民主主義に逆行するような行動が見られるなど、戦後の世界を支えてきた「自由」と「民主主義」という規範が大きく揺れ動き、民主主義が国内外で危機に瀕している中、言論NPOは民主主義に関する2つの事業を行いました。
まず日本、韓国、インド、インドネシア、マレーシアのアジアの民主主義5カ国共同で行った世論調査です。今回の世論調査結果から、民主主義に対して懐疑的な世論が各国に高まっていることや、国会や政党など民主主義を支える様々な仕組みに信頼が失われていることが明らかになりました。この調査結果をもとに、日本では、「民主主義の試練をどう乗り越えるか」をメインテーマに、国内外から政治家、ジャーナリストなど約20氏が参加し議論が行われました。会場には200人の聴衆が参加し、この議論の模様はインターネットで中継されました。
さらに、言論NPOが設立16周年を迎えた11月21日、ジョージ・ソロス氏が設立した中央ヨーロッパ大学の学長を務めたジョン・シャッタク元米国務次官補、世界の民主主義の発展を目指しインドネシアが設立した「バリ民主主義フォーラム」の生みの親であるハッサン・ウィラユダ元インドネシア外相などの有力者ら5名が参加し、「民主主義の試練にどう立ち向かうか」をテーマに議論が行われました。
加えて、言論NPOのアドバイザリーボードの8氏が参加し、民主主義にどう取り組んでいくかを議論しました。その結果、まず有識者と呼ばれる人たちが、民主主義の危機に発言を始めようということを申し合わせました。この議論の模様は、言論NPOのホームページで発信されると同時に、当日の議論の模様はインターネットで中継されました。
10月の衆議院選挙で有権者の判断材料を提供
民主主義に関するもう1つの事業は、10月に行われた衆議院選挙に対する対策です。
今回のマニフェスト評価では、最も高い評価となった自民党ですら100点満点で32点、その他は10点台が5党という結果であり、国民との約束という意味では、選挙公約が全く体をなさない状況になっています。こうした評価結果を踏まえて、主要5党の政策責任者に対して、言論NPOの評価委員と代表の工藤泰志が、マニフェストからは読み解けない疑問点を、主要5政党の政策責任者に直接ぶつけ、各党1時間半にわたり公開で質問をしました。
さらに、安倍政権4年10カ月の実績評価も併せて公表しました。11分野の平均点は5点満点で2.4点となり、昨年末の4年評価の2.7点に比べて0.3点下がりました。安倍政権実績に評価については、有識者アンケートも実施し、333人が回答し、その結果を公開しました。さらに、経済・財政、社会保障など、5つの分野については、評価委員を含めた専門家14氏が集まり、公開で評価議論を行いました。これらの議論は全て、インターネットで公開しています。
さらに、1月18日には、「第5回エクセレントNPO大賞」の表彰式が行われました。今回の審査には過去最高の156団体から応募があるなど、「エクセレントNPO大賞」も5回の開催を経て、非営利団体に定着してきました。また、全国紙でも大きく取り上げられ、高い評価を得ることができました。
議論形成の日本社会と世界への発信
言論NPOが行う全ての議論は、言論NPOの日本語サイトで公開し、約8000人を超える有識者にもメールで伝えられます。さらに平成29年は、英語版ウェブサイトを全面的にリニューアルして英語発信を強化すると同時に、英語でのニュースレター配信を通じて、世界の有力シンクタンクやメディアや、世界の知識層、数百人にも直接伝えました。
また、この一年間で、世界的課題についての各国の有力なシンクタンクとの議論や、米国ジャーナリストとの対話等を通じて、海外有識者とのネットワークが大きく広がりました。こうしたチャネルを活用して日本の声やオピニオンを世界に伝える役割を担いました。
言論NPOの年間ウェブサイトの訪問者数(UU)は18万2691人となり、昨年度より微増となり、これまで最大だった27年度に迫る結果となりました。ただ、活動が飛躍的に広がりながらも、発信がまだ十分でないという課題は継続しており、今後、一層の発信を増やしていくこと、さらに他のメディアと連携し、顧客層を広げると同時に、外部から顧客を誘引するかも、今後の課題となっています。
また、その時々のテーマに見合った公開型のフォーラムを実施したことです。28年度は日本の将来課題や世界の課題を軸に23回の言論スタジオ・フォーラムを行い、各界の論者、55氏が出席し、議論には延べ約600人が聴衆として参加しました。
またこうしたフォーラムでは可能な限り、日本の有識者のアンケート結果を公表しており、6回のアンケートに対し1423人からご回答いただきました。
こうしたウェブサイトの訪問者数やフォーラムの聴衆、アンケート回答への更なる増加を今後も図っていきます。
2.組織基盤の強化
まず、平成29年度、私たちはカウンシル方式の組織体制に向けた具体的な作業を開始すること、さらに「言論カウンシル」を安定的に運営するための会員組織の基盤を整えるために作業を開始することを目標に掲げました。しかし、一部週刊誌の事実無根の捏造報道に対して原因究明と再発防止のため、第三者などで構成するコンプライアンス委員会が発足し、9月以降、徹底的な組織の見直しとその改善に注力しました。具体的には、就業規則の見直しや労務環境の改善、情報管理の徹底、これまで曖昧だった管理職の職務権限についての明確化、事務局内にリスク管理担当の新設、予算や会計ルールの見直し、苦情の外部処理通報システムなどで、これらすべての整備が完了しました。
会員の運営では、モーニング・フォーラムや、政策勉強会、オープン・フォーラムなどを行いました。その中では、今後の言論活動の中核的な担い手であるコアメンバーの開拓、会員に対するサービスの定期化ということが大きな目標でしたが、その取り組みは不十分な結果となりました。言論NPOのアドバイザリーボード会議において、組織ガバナンスの強化に向けた改善を優先し、カウンシル方式への組織体制の移行については、数年遅らせるという提言を受けています。こうした提言を受けて、私たちは29年度に途中になった会員運営などの組織固めを30年度に引き継いで実行したいと思っています。
一方で、活動資金の調達については、寄付に加え、企業寄付、財団等からの助成という3つの資金基盤の強化に取り組みました。「東京-北京フォーラム」や「日韓未来対話」などの事業に対する寄付や、国際交流基金などの財団に対する助成に注力しました。また、米国や欧州の財団についても計画的に関係構築を進めており、29年度は初めて、ヘンリー・ルース財団からの助成を受けました。
加えて、新しい取り組みとして東京都中央区「ふるさと納税」制度を活用した寄付募集に初めてチャレンジしました。今後は、この制度を活用した資金調達を言論NPO資金調達の一つの大きな柱としていく方針です。
今後とも一般寄付などで本体事業を賄うという点では計画的な努力が必要となっているほか、世界的規模で大きくなっている活動内容に見合う形で組織基盤をより強固なものにする必要もあり、次年度の計画にこれらの課題を引き継いでいきます。
主な活動履歴
2018年3月 | 第3回日中常設安全保障対話開催 |
第2回「東京会議」開催/G7議長国(カナダ)への緊急メッセージを採択 | |
2月 | 北朝鮮に関する世論調査結果を基に言論フォーラム開催 |
全米アジア研究所(NBR)との意見交換会開催 | |
1月 | 第5回エクセレントNPO大賞表彰式実施 |
ブルッキンス研究所主催ワークショップ参加(於:米国) | |
アメリカ・ワシントンDCを訪問し米国シンクタンク等と協議 |
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2017年12月 | 北朝鮮問題に関する日米共同世論調査結果公表 |
第2回日中常設安全保障対話開催 | |
11月 | COCブエノスアイレス地域会合 |
東京会議プレフォーラム「民主主義の試練にどう立ち向かうか」開催 | |
10月 | 衆議院議員選挙マニフェスト評価/安倍政権実績評価公表 |
「日米中韓4カ国対話」開催 | |
9月 | 第3回アジア言論人会議開催「アジアの民主主義の試練を考える」 |
民主主義に関するアジア5カ国の世論調査結果公表 | |
第1回日中常設安全保障対話開催 | |
8月 | コンプライアンス委員会発足 |
7月 | 論考発表:今、グローバルイッシューを考える「G20ドイツサミットで問われることとは」 |
トランプ政権や日米関係に関する緊急世論調査結果を公表 | |
6月 | アジアの安全保障問題に関する公開フォーラム開催「北朝鮮危機と日本の有事体制」 |
5月 | 海外有識者座談会:米新政権を考える「トランプ政権100日の評価」 |
米有識者との意見交換 | |
4月 | ドイツ連邦議会議員、有識者との対談 |