今年、言論NPOは、創設20周年を迎える。20年前、日本の民主主義の統治は、現在と同じように政治家の個人的な利害や資質に影響される不安定なものだった。直面する困難の多くが先送りされ、日本の将来を全く描けない状況にあった。
当時、私たちはこの状況を「言論不況」だと社会に問題提起している。日本の将来を見えなくしているのは、言論側にもその責任があると考えたからだ。
私たちは、日本の民主主義の土台にある日本の言論空間を活性化し、言論の役割と責任を私たちなりに果たそうと考えた。それが、言論NPOの立ち上げである。
この20年間、私たちの議論や取り組みは日本だけではなく、アジアや世界に広がった。だが、この「言論不況」の状況は変わるどころか、さらに複雑になり深刻化している。
私たちが今、再び強い覚悟でこの事態に臨もうとしているのは、世界やアジア、そして、この日本もこれまでとは比べ物にならない歴史的な困難に直面しているからである。
世界では大国間の対立が世界の分断と世界の協力に深刻な影響を与え、アジアでの緊張が高まっている。民主主義の後退は世界でだけではなく、この日本でも誰でも感じる状況にまで深刻化している。
その困難な舞台こそ、この20年間、我々言論NPOが戦い続けた現場である。その場で私たちはどうしても、この困難に立ち向かう新しい流れを作り上げたいのである。
令和三年の事業計画は私たちの新しい覚悟の行動計画である
コロナ感染の影響は、私たちの活動にも深刻な影響をもたらしている。この一年半以上、実質的に言論NPOの活動は休業状態に陥り、感染の影響で少人数になりながらも、私たちは様々な議論を展開し、海外との対話である、「東京―北京フォーラム」を含めた中核事業を中断せずに実現した。
オンラインでの議論は国境を越えるという点で大きな可能性を生み出している。ただ、それ以上にこの歴史的な局面で、事業を止めることはできないと私たちは考えた。
コロナの影響は、世界の国際協力や日本の危機管理能力の脆弱さを明らかにしたが、そこから学んだのは私たちも同じである。私たちの事業をこうした危機下でも、持続的に議論を発信できるように立て直せなければ、こうした世界の危機やアジアやこの国の試練に貢献をすることもできないからである。
しかも、インターネットの普及は20年前とは比べられないほど進み、SNSなどでの発言は多くの人の不安に付け込むみ、無責任で感情に訴える議論やフェイクニュースが目に着くようになった。20年前に提起した「言論不況」は形を変えてより複雑になっている。
私たちは事業を持続させ、さらにより大きな発信力を持たなければ、こうした変化や民主主義の修復に真正面から取り込むことも難しい局面に立たされている。
時代の変化は新しい努力を私たちに求めている。
それは日本の民主主義を修復し、多くの人がこの国の将来やアジアの平和、世界の課題に立ち向かう、そうした新しい動きを作り出すことである。
その一歩を始めることが、今年、成人式を迎える私たちの新しい使命なのである。
令和3年度の、私たち言論NPOの事業計画はそれを始めるための行動計画である。
言論NPOが令和3年度に取り組む二つの課題
令和3年度に私たちが取り組む課題は二つある。一つはコロナ禍で深刻な影響を受けた、私たちの活動自体の修復である。もう一つが、社会に影響力を持つ言論NPOに向けた、新しい取り組みを始めるための準備である。
令和2年の事業報告でも説明したように、私たちの活動はコロナの感染に伴う二回の緊急事態宣言で実質的に休業状態に追い込まれ、今なお、三回目の非常事態宣言の最中にある。
その中で私たちは少ない人数で、議論の発信は行い続け、「東京-北京フォーラム」や「アジア平和会議」などの中核事業を中断することなく継続している。
しかし、これらはコロナ禍でオンライン会議だからこそ、少人数でも実現できたもので、しかもコロナの影響で多くの寄付が減少する中で、言論の事業自体の継続自体が綱渡りの状況であることは間違いがない。
そのため、令和3年の事業の最初の課題は、言論NPOの体制や資金繰りの安定化を確保することにある。
そのためには言論NPOの活動に協力する人たちの言論NPOへのメンバー化を進め、さらに「言論NPOの20周年」を記念した寄付キャンペーンを行うことにしている。
言論NPOへの参加や寄付の仕組みが抜本的に変わりWEBサイトも刷新
次に新しい言論NPOの活動に向けた準備だが、ここも二つの目的に向けて準備をすでに行っている。
第一に、言論NPOの参加や支援の仕組みを体系的に整理し、それぞれの会員や寄付の仕組みに合わせたメリットや権限を整理し、さらにそれらの登録を可能な限り自動化するためにWEBサイトの全面的な見直しを行うことである。
この準備作業はすでの令和3年の年明けから始まっており、6月末には実装化することになっている。別表のように、これまでの言論NPOのメンバーや一般会員に加え、新しく寄付にマンスリーサポートの仕組みが加わり、さらにフォーラムへの参加を希望する人のために、フォーラムパスポートが販売されることになる。
マンスリーサポーターやフォーラムサポートの仕組みは7月以降に開始されることとなる。またこれらの寄付や参加申し込みなども言論NPOのWEBサイトで行われることになり、その作業の大部分が自動化されることになる。
言論NPOはこれまでもWEB改革を行っており、特に議論の発信は他の日本のシンクタンクと比べてもかなり頻繁に行われ、携帯でも議論が読める形になっている。
ただ、それでも議論の発信は他の既成のメディアやインターネットを活用した新しい発言者と比べても圧倒的に少なく、その存在感は取り残された形になっている。
言論NPOはこの一年で30回以上の言論スタジオを行い、その動画をインターネットでも公開しているが、視聴者は1フォーラムあたり数百件と少なく、これに対しては、内容は適切だが、難しく敷居が高い、さらに言論NPOが取り組む課題との連携が分かり難いとの声があるのも事実である。
このインターネット空間での議論の発信力は、言論NPOが目指す民主主義の強化という設立のミッションを実現するためにも不可欠であり、この影響力を高めることが言論NPOの幅広い支援基盤を構築することにもつながる。
そのため令和3年に私たちが取り組むのは、言論NPOのコンテンツを可能な限り、無料で公開し、それを閲覧できる無料登録者をまず一万人以上にまで増やすこと、さらにこれまでのオンラインの言論フォーラムに加えて、多くに市民の目線に合わせたニュース解説などの動画を継続的に発信することである。
これにより、言論NPOの活動の基盤となる顧客基盤を幅広く、囲い込むことでそれを言論NPOへの安定的な寄付基盤に発展させるという、環境を整えることになる。
ちなみに、6月末時点での無料登録者は2000人強だが、これを令和3年度末には1万人に上げ、翌年の令和4年度末には3万人を目指すことにする。
持続的な経営基盤に向けた準備を実質2年で進める
言論NPOの令和3年度の事業は、コロナ禍の非常事態宣言下から始まることになる。
ワクチンの普及も進んでおり、宣言の解除は年内に見込まれるが、まだ不安定な状況が続くために、言論NPOの令和3年度の事業は、今年の組織活動を維持することと次に備える準備を大きく進めることに注力することになる。
私たちはこの行動計画を今後、令和3年から令和4年度末までの2年間で進めようと考えており、その目標は以下のように掲げ、それの実現を目指す。
ただ、これらの目標は事務局だけで実現することは難しいため、言論NPOの理事会やアドバイザリボードが先頭に立ってそれを進めることとなる。理事会は今回理事を大幅に入れ替えて体制を強化している。
また言論NPOのメンバーにも協力を呼び掛けることにしており、そのため理事会内にメンバーも加えた企画広報委員会を新設し、同委員会が言論NPOの支援を促進する場となる。委員会体制はこれで従来からあるコンプライアンス委員会と合わせて二つとなる。
加えて、今後行う幅広い議論やフォーラムにもメンバーの協力を内容によってお願いすることになる。
20周年事業は、日本の民主主義の修復を柱に組み立てる
令和3年はこうした組織整備と会員や寄付の展開を幅広く行うことになるが、こうした動きを加速させるためにも、20周年事業を特別に行うことにする。
この事業は、言論NPOの設立時のミッションに立ち返り、日本の民主主義の修復を中心に組み立てる。
日本の民主主義の様々な仕組みを総点検し、それを改革する方向を記念日に提案し、多くの人と議論することを検討する。
また、この20周年を軸に言論NPOの議論づくりの新しい方法も検討する。
言論NPOの議論活動は、日本やアジア、世界が直面する課題に見合った議論やその取り組みを公開する形で組み立てられており、今年度はさらに市民の目線に立った形で多くの人が現状の問題を自分で判断できるようにするためにニュースの解説にも取り組むが、さらに議論を通じてまとまった見解を、政府や政治に提案するための議論サイクルを実現するための準備を行う。
令和3年の主なスケジュール