山崎正和 (評論家)
やまざき・まさかず
1934年生まれ。56年京都大学文学部哲学科卒業。京都大学大学院美学美術史学博士課程修了。関西大学、大阪大学教授を経て、現在東亜大学学長。劇作から文芸評論、社会論まで活動領域は広範囲。主な著書に『柔らかい個人主義の誕生』『大分裂の時代』『歴史の真実と政治の正義』等。
小林陽太郎 (新日中友好21世紀委員会日本側座長、富士ゼロックス会長、言論NPO アドバイザリーボードメンバー)
こばやし・ようたろう
1933年ロンドン生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートンスクール修了後、富士フイルム入社。富士ゼロックス取締役販売部長、取締役社長を経て、92年に代表取締役会長に就任、現在に至る。その他、経済企画庁経済審議会委員、文部省大学審議会委員、社団法人経済同友会代表幹事などを兼任。
佐々木毅 (東京大学総長)
ささき・たけし
1942年生まれ。65年東京大学法学部卒。東京大学助教授を経て、78年より同教授。2001年より東京大学第27代総長。法学博士、専門は政治思想史。主な著書に「プラトンの呪縛」、「政治に何ができるか」等。
宮内義彦 (オリックス会長)
みやうち・よしひこ
1935年生まれ。58年関西学院大学商学部卒。60年 ワシントン大学経営学部大学院修士課程(MBA)卒。60年日綿實業株式会社(現 ニチメン株式会社)入社。64年オリエント・リース株式会社(現オリックス株式会社)入社。取締役、代表取締役専務、副社長、社長を経て、2000年より代表取締役兼グループCEO。
北川正恭 (三重県知事)
きたがわ・まさやす
1944年生まれ。67年早稲田大学第一商学部卒業。三重県議会議員を経て、83年衆議院議員初当選。90年に文部政務次官を務める。95年より三重県知事。ゼロベースで事業を評価し改善を進める「事務事業評価システム」の導入や、2010年を目標とする総合計画「三重のくにづくり宣言」の策定・推進など、「生活者起点」をキーコンセプト、「情報公開」をキーワードとして積極的に県政改革を推進している。
概要
「日本の改革」の遅れは今や海外や市場からも厳しい評価を受けるにいたっている。小泉政権は当面の危機回避で、デフレ、金融対策に動き出したが、改革はむしろこうした危機と共存しながら中長期的な日本の大事業として始まっているのである。新しい日本を創るために私たちは「日本の改革」にどのように向かい合わないとならないのか。言論NPOのアドバイザリーボードの山崎正和、小林陽太郎、佐々木毅、宮内義彦、北川正恭の5氏が話し合った。
要約
山崎氏を司会進行役とした座談会は、まず、2月初旬にニューヨークで開かれたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に出席した小林氏による報告から始まる。今年のダボス会議では、アメリカ中心のグローバリゼーション、株価至上主義的な市場経済に対する批判が高まった。一方で、日本に対する要求も厳しいものがあった。内閣支持率が大きく下がるなかで、小泉総理はリーダーシップを発揮して改革を進められるのか。さらには、深刻な金融システム不安を鎮めるために、断固たる決意とスピードをもって不良債権処理に対処できるのか。日本はスピードが遅すぎるというのが、欧米の共通認識だ。
では、なぜスピードをもった改革ができないのか。その理由として宮内氏が指摘するのは、「日本には、いまだに社会主義的な経済システムが色濃く残っている」という点だ。郵政3事業に代表される官営経済、あるいは非効率企業を競争から守る護送船団方式。これを続けている限り、革新は生まれない。付加価値を生まない経済循環を600兆円を超える莫大な借金で維持してきたが、それも限界にきている。このままでは、経済は萎縮するしかないと宮内氏は危惧する。
官が主導するこのシステムを、北川氏は「制度補完性」という言葉で説明する。官に都合のいい制度が互いに補完しあう仕組みが戦後50年続いている。こうしたキャッチアップ型のパラダイムを成熟国家となった今も温存しているために、政治経済体制がいまだに未成熟なままになっている。これを打破するには、「生活者起点」に立ち、徹底した「情報公開」による行政運営がカギとなる。
これに対して、トップダウンで「相互補完性」メカニズムの破壊のメッセージを出し始めたところに小泉改革の出発点があり、そのこと自体には非常に大きな意味があると、佐々木氏は応じる。ただ、その改革が目の前の経済問題について、どういう具体的な結果を生み出すのか、明確に語れる人はだれもいないのではないかと指摘する。