「政治の崩壊」を有権者はどう直視すべきか
6月2日、都内にて、言論NPOの第三回アドバイザリー・ボード会議が開催されました。今回は代表工藤のほか、増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問)、宮内義彦氏(オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEO)、武藤敏郎氏(株式会社大和総研理事長)が参加しました。
まず代表工藤は、「衆議院本会議では首相の不信任決議案が議決される重大な局面だが、今日はこの事態を含めて、日本の政治は今どんな局面にあるのか、そしてこれをどう変えていけばいいのかという点について議論をしたい」と述べました。
まず、日本の政治の現状について、増田氏は、「今、日本が抱えている危機に対して、今の政治は全く対応出来ていない。3月11日を経て、様々な問題が顕在化して日本の政治の弱さが明らかになった」と述べるとともに、「この政権は我々がたった二年前に政権交代によって選んだ政権。単におかしいといっただけでは本当の意味での責任は出てこず、我が身の不明を恥じるということに結局は戻らなければならない」と述べました。また、宮内氏は現在の政党について触れ、「綱領がないのに集まるというのは何なのだろうか。政治を行うにはふさわしくない集団になっているのではないか」と指摘、武藤氏も、「二大政党制と言っても、ほとんど同じ政策を「より徹底してやります」ということが政党間の政治の論争になっている」と述べ、明確な対立軸がないままに、政党が政党としての役割を果たしていないことをともに批判しました。
そして、日本の政治がこの国の復興に向けて次に進むために必要なことを問われると、武藤氏は「極端な話をすれば、政治がどうであれ、日本国民は必ず乗り切っていく」と前置きした上で、「最も望ましくて、かつ可能なシナリオは、選挙をすること。それまでの暫定的な政権を作り、選挙を機に、新たな政治に転換していくしかこの問題は整理がつかない」としました。増田氏も同様に、「どんな形になったとしても、民主的な正統性はない以上、いずれかの時期において、選挙によって解決するしかない」としながらも、「それまでに、社会保障やエネルギー問題といった、そもそも解決を迫られていた課題に対して整理する期間を置き、次の選挙で何をかけて国民に問うのかを明らかにする必要がある」と強調しました。最後に宮内氏は、政治空白をつくってはならないとするメディアの論調に疑義を呈した上で、「必要であれば、解散や政権の枠組みの変更もありうる。これだけ政党政治が崩れている状況であれば、残念ながら、国民が気付くまで、何度も解散しながら政党というものをつくり上げていくことをしないと、本当の二大政党制にはならない」と指摘しました。
最後に工藤は、「最も気になっているのは、政治側に、日本の未来にとって現状がかなり厳しいという現実感がないこと。今こそ現実感を取り戻すべき時期であり、国民もそこからスタートしなければならない。言論NPOは、多くの人々が共有しなければならない議論をどんどん公開していきたい」と述べ、本会を締めくくりました。
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言論NPOのアドバイザリーボード会議
出席者
増田寛也(野村総研顧問)
宮内義彦(オリックス株式会社 取締役兼代表執行役会長グループCEO)
武藤敏郎(大和総研理事長)
工藤:今日(6月2日に実施)は、衆議院の本会議で総理の不信任案が議決されるという非常に重大な局面の日ですが、みなさんに今の日本の政治を、どういう風に変えていけばいいのか、ということを率直に話していただけないかと思っております。
まず、最初に、今の政治の現状について、みなさんはどのように判断しているのか、ということから始めたいのですが、増田さんお願いします。
増田:今、日本が抱えている危機は、4つか5つぐらいあるわけです。津波被害、その被害を受けて、サプライチェーンも寸断されました。経済が非常に打撃を受け、途方もない被害が出ています。それから、原発の事故。東だけではなく、西日本を含めた途方もなく電力が喪失される可能性がある。それから風評被害。こういった危機の時には、強い政治が求められていると思うのですが、それに対して、今の政治は全く対応できない。
ただこれらは3月11日によって危機が生じたわけではなくて、実は、それ以前から非常に大きな問題を抱えていた。3月11日を経て、様々な問題が顕在化して、日本の政治の弱さが明らかになった。こういうことだと思います。
現状をそう捉えたときに、私は政治に直接言いたいことが山のようにありますけど、結局、最後は、我が身の不明を恥じるしかない。我々がたった2年前に政権交代によって選んだ政権です。それが、今はこんな体たらくだと。それを単に、おかしい、おかしいといっただけでは、本当の意味での責任は出てきません。私は、我が身の不明を恥じるということに結局戻らなければいけないと思います。端的に言えば、今、色々政治のゲームにうち興じている政治家には、二度と国政を託したくないな、というのが率直な思いです。
問われているのは、この国の「統治の崩壊」
宮内:震災によって色々なことが顕在化したという、増田さんの話はその通りだと思うのですが、その中で、政治というものが何だろうなということを考えますと、1つは統治機構という形、もう1つは、統治機構の中で政治を行うのは、具体的に言うと、政党なのですね。そして、政党の思いを実行するのが行政なのです。そういうものが、うまくつながっていないと政治というのは動かないのだけれども、私はそれらが潰れてしまっているのではないか、と思えてなりません。
まず、統治機構の形ですが、考えてみると1947年施行の新憲法の時から形は変わっていないわけです。その後、世界はもの凄く変わりました。同じ頃に戦争に負けたドイツでさえ、東西統一以降も憲法を十数回改定しています。日本は硬い統治機構で、結局、総理大臣は大臣間の議長みたいな立場でしかないと。終戦直後は、権力の分散がいいことだということでやっていたのが、分散し過ぎて、誰が責任をとるのかがわからない。日本は総理が悪いというけれども、本当は統治機構が悪いのであって、総理に権力を持たさなかった、ということではないかと思います。いずれにしろ、統治の形を変えないといけないということが1つです。
それから、2つ目ですが、その形を実行するのは政治家であり、その集団が政党だということになると、政党の在り方が問われなくてはならない。
今の政権政党は本当に政党なのだろうかと。言うなれば、綱領のない政党です。綱領がないのに集まるというのは何なのだろうか。この指止まれというけど、何に止まっているかわからない、いわゆる烏合の衆なのです。綱領がない政党はあり得ない。綱領らしきものはマニフェストということで選挙を戦ってきたけれども、勝った途端にそこに書かれたものはどれもこれもダメだと言われている。自民党もそうだったし、今の民主党も政治を行うには相応しくない集団になっているのではないか、というのが実態だと思います。これは、全てやり直さなければいけない。
私は政治と行政がぴったりとくっつかないとうまくいかないと思っています。政治は国のグランドデザインをつくり、そして方向性を定めて、必要な法律の手当をして、行政にやりなさいと指示する。そして、行政がきちんとやっているかどうかをチェックする。このサイクルができないといけないのですね。現在の政治と行政の関係はそうではなくて、政治主導というものが出てきて、ものの見事にうまくいっていない。だから、行政の方は、何をしたらいいかわからない、あるいはやるなと言われている。この統治機構、政党、政治と行政の3つが、その全部がダメだと。でも、そういう政治を選んだのは国民なのですね。だから、我々も国民の1人として情けないし、責任ある国民として少しでも変えないといけないと思います。
武藤: 結局、2大政党制というためには、価値観が明確に2つに分かれていなくては成り立たないわけですね。同じ政策を、どこまで徹底してやるかということが、政治の論争になるわけですね。そうではなくてやるのかやらないのかといったような明確な対立軸はないと思います。大きな点では、日本の国民は、それほど2つの価値観ではわかれていない。むしろ、細かいことに多様な価値観を持っている。ですから、少数政党も存立するだけの国民的な多様性がある。
もし、本当に政治改革をするというのであれば、2つの価値観に分かれるようなそういう国民的な議論の消化が必要なはずです。そういうこともないまま行われている、今の政治が色々な形で行き詰まっていると私は見ています。
その中で、先程ご指摘のあった、政治と行政の関係。行政改革と政治改革がバラバラに行われ、あるいは規制緩和も色々行われてた。しかし、その結果どうなったかというと、どうも統一的には説明できない。一方、2つの価値観に分かれた国民は存在しないし、メディアは依然として、改革から一番遠いところにいる。ですから、何でもバブル前の基準で評価しているようなところがあると思うのですね。そういうオピニオンリーダーが混迷している、ということも、我々は何とかしなければいけない1つかと思います。
現状、そういういった変革について、壊すことはできたけれど、新しい秩序ができていない、ということなのではないかと思います。
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首相の不信任を巡る混迷をどう受け止めるか、
工藤:今回、不信任案を提出したという動きについては、肯定的に捉えるべきなのでしょうか。つまり、今の話を伺っていると、政治そのものが破綻していて、政党も機能しない、統治が壊れているところまできていたわけですね。だけど、依然、課題はある。それに対して、十分に政治が応えられないという状況が、今、現実にあるわけですね。
政治がどんなにおかしくても、今は、被災地が大変だから、みんなで力を合わせてやれ、というのは何となくわかるのだけど、しかし、それが課題解決に向かい合えなければ、結果として、歪みが大きなものになる。そうすると、今回の不信任という問題は今後の日本の再生を考えたときに、どういう風なものだと受け止めなければいけないのか、ということですが、増田さん、どうでしょうか。
増田:この不信任ということについて、一定の政治上のルールがあって、不信任案を提出するにあたって、それが通るということを前提にした場合に、その後、一体どういう姿になるかということを、国民あるいは国政の場できちんと示して、不信任案を出す。いわゆる、大義ですよね。どういう首班構成をして、どういう政党がそれを支え、どういう社会、どういう世の中の改革をしていくのか。こういうことがあって初めて不信任案だと思うのですが、今回、それが示せたのかどうか。野党としての提出の力も弱いと思います。
一方で、もっと更に情けないのは、それを受けて立つ与党・民主党です。そもそも綱領もない党でありましたが、党の代表が党を全く制御しきれていなくて、これまでの間やってきたことと言えば、政権を延命するための場当たり的な対応。二次補正も秋にすると言ったり、あるいは急に会期を延長して、通年国会にすると言ったり、全て、自らの政権の延命策という願望というか、野望みたいなものが見え隠れするわけです。そういう代表を、こういう形で、野党が提出した不信任案に乗るという形でしか、自らの党を改革するというか、自らの党を正すことができない党員、議員を中に抱えているという党が与党である。
私は不信任案を出すタイミングではないと思いますが、しかし、結果として出たわけです。それについての基本的な政治で守るべきルールも守れていないという風に思います。ですから、今回の不信任案や今の事態については、大変否定的です。もっと大きな問題は、(衆議院の一票の格差が司法から指摘される中で)総理たるものが、そういった形で司法に挑戦するかのごとく、不信任案が可決したら解散だと言ったことです。こういうこと自体がおかしいし、立法府の1つである参議院の議長が行政府のトップに対して、諦めろとかどうのこうのと、元は同じ党の人が言うこと自体、極めて異例でおかしい。ですから、全てが崩れている。
工藤:今までの話を聞いていると、単なる不信任案ではなくて、政党も含めて、日本の政治そのものが壊れてしまっているということですね。
増田:原発でメルトダウンという言葉が使われていますが、まさに政治のメルトダウン。
工藤:私は、そこまで日本の政治が来ているという現実感を国民は知らないと、前に進まない段階にきているのではないか、という感じがしています。宮内さん、今回の不信任の問題について、正当化できると思いますか。
宮内:やはり、日本の統治機構の問題がかなり絡んでいると思っています。衆議院と参議院という二院があって、時期の違う時に、国民に対して(選挙という形で)支持率調査をやっているようなものです。2年前、自民党が衆院選で大敗した時は、自民党に対して、国民はもう嫌だという強烈なノーを示したわけです。その1年後の参院選では、民主党の政治はひどいということで、完全に国民はノーをつきつけたわけです。そして、参議院で与野党が逆転してしまった。衆院選での支持率調査は少し古く、参院選の調査の方が新しいので、だから総理を辞めなさいというのは、何となく分かるような気もするけれど、変だなと。そういう二院制度、同じ政党が同じサポーターを求めて、同じ選挙をするという形の中で、変なことが起こってきているのだと思います。
そういう意味で、野党が不信任案を出すことは当たり前かもしれません。しかし、今の与党は、政権与党としての与党ではないのですね。先程も言いましたけど、烏合の衆です。だから、政権政党ではなかったということです。
工藤:民主主義の下では、政治家は国民の代表として機能しなければいけないのに、その関係がプツンと切れているわけですよね。つまり、代表だと思っていた党も実質的には分裂し、烏合の衆だったし、政治も崩れている。この状況を、つまり、今は震災で大変だから、黙って見て見ぬ振りをしていくということで大丈夫なのでしょうか。
宮内:昔であれば、若い人がデモでもしますよ。日本の若者がどれだけ気力を無くしているかということですね。
武藤:今回の不信任案の議論は、現状を前提とすると、どっちがいいとか悪いとかいう問題ではないと思います。なぜこれだけ混迷しているかと言えば、先程から何度も話が出ているように、民主党が政党として体をなしていないわけですね。それは、ある意味で、出自から見ても、党の中には右から左までいろいろいて、とても1つの政策を標榜しているとは思えないわけです。今回のマニフェストも一部の人が十分な議論がないままつくったのではないか、と言われています。うまくいかなければ変えるという人もいるし、変えてはいけないという人が出てくるのも、元々の民主党の出発点から見ても、ごく自然な結論なのかもしれません。そういう中で、たまたま大震災が起こって、その対応が悪かったということで、不信任ということになったときに、色々な意見があって与党の方がまとまらないという状態になっているわけです。
問題は、国民が右から左までいる民主党を冷静に評価して、これが正しい政党かどうかということは、無理な話だということです。本当の意味では、投票の対象にならないような政党だと言わざるを得ないわけですね。今回の不信任案がそういう中でどう見ても100%合理的だとはとても言えない。しかし、全く不合理とも言えない。何か打開しないといけないということです。
先程お話がありましたけど、総理を変えようと言っても、新しい総理は誰なのか、という部分についてははっきりしていないわけです。ですから、この不信任案が新たな大連立になるとか、そういう形で新しい展開に結びつけば、それはいいと思うし、新たな混乱になるとすれば、この不信任案はあまり時宜を得ていなかったと、つまり結果によって評価するしかないと思います。
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この局面は国民に信を問う段階ではないか
工藤:今のままでいけば、この国の政治は混乱して、混迷を深めていくという風にしか見えないわけです。これを、逆に考えて、今、武藤さんがおっしゃったように、打開するというか次のステージに上げるとすれば、何が必要なのかということです。僕は、政治が国民の信を問わざるを得ないという局面になっているように思います。ただ、そのためには衆議院の定数の問題がある。そうすると、最終的に、国民の信を問うということを1つのエンドとして、その間に何をして、どういう風な仕組みをつくっていくことが必要なのでしょう。武藤さん、どうでしょうか。
武藤:最も望ましくて、かつ可能なシナリオは、最終的には選挙をするべきだと思います。そうでない限り、この問題は整理がつかないと思います。
しかし、今は、先程、増田さんがおっしゃったように、色々な意味で選挙が非常に難しい。そうすると、不信任案が可決されるにしろ、可決されなくて党が分裂したとしても、本格的な政権が見えてこないので、何らかの意味で、選挙までの暫定的な政権をとりあえずつくる。それで、きちんと選挙をする。その時が勝負になって、そこから新たな政治に転換していく、というのが最も望ましい姿ではないかなと思います。
いきなり、現状のままの政治が、新しい、望ましい政権をつくってくれるという風に期待することは、無理があるのではないかと思います。
工藤:その期間にやらなければいけないことは、復興とその財源、それから衆議院の定数の是正ということでしょうか。
武藤:選挙ができる環境整備をすること。それから、復興については、私は(選挙があっても)できると思います。色々な問題はあるかもしれないけど、この復興が命取りになって政治がおかしくなるということにはならない。
極端な話をすれば、別に首相がどうであれ、政治がどうであれ、日本国民は必ず乗り切っていくと思います。その程度のまとまりと、知恵と力はあると思います。ですから、震災を全ての理由にして、政治の動きをそれによって封じてしまうことは、適当ではないと思います。その他にも、(政治が混乱して)経済がどうなるのだという声もあるけれども、震災前から製造業のなかには海外に出て行こうかと思っていた企業はかなりあったわけです。震災が起こって、じゃあ本気で考えようか、という感じで背中を押されたところはあるけれど、その程度の変化だと思います。
海外移転なんかは、何年も前から言われていることです。それをあたかも震災のせいにするというのはよくない。
工藤:一部メディアの主張を見ていると、今、こういう震災で大変だから、オールジャパンで力を合わせなければいけない。選挙なんてとんでもない、という見方です。
武藤:それは、現状維持派を前提とすれば、その論理は正しいのですが、そこから攻めても、望ましい答えは出てこないと思います。
工藤:どちらにしても、日本は今の政治構造を変えなければならず、課題解決からは逃げられない、ということです。増田さん、どうでしょうか。
増田:今日、不信任案が可決されても、否決されても、政治空白ができる。可決されなくても、統治能力を完全に失っているわけですから、震災の対応後に退陣といっても、だったら早く辞めろよ、という声が強まるに決まっています。どちらにしても政治空白の状態は起きると思います。
おそらく、この2年間は正当な選挙はできないだろう、と。だから2年間、この結果は甘んじて受け入れるしかないと私は思います。
ただ、今、お二方からも出てきていましたが、いつの時期か、選挙でもって解決していく他はないと思います。選挙によって解決するしかないのですが、それまでの期間で、どういう人が首班になるかは別にして、解決するべき課題、それは今回の大震災に伴う課題を羅列するだけではなくて、そもそも課題解決を迫られていた社会保障の問題などの根本的な問題、それから大変重要な原子力の扱いをどうするか。自然エネルギーは頼りになるエネルギーなのか、という問題について、緊急性のあるものから片っ端から片付ける。
そして、次の選挙で国民に何を問うのか、ということを整理する期間とするしかない。今までのような曖昧な問い方ではなくて、国民にきちんと覚悟を迫るような政治側の迫力を出さないと、もう政治は持たないと思います。
工藤:今、不信任を出されてしまっている菅政権が、みんなと一緒に、また暫定的にやりましょう、ということがあり得るのでしょうか。
国民は4年間を白紙委任したわけではない
増田:どんな形になったとしても、民主的な正統性はない。これで、仮に谷垣さんが暫定的に総理になるとしても、それは民主的な正統性は全くありません。菅さんがどこかの人達と、この期間だけだからと言って一緒にやったとしても、ほぼ民主的な正統性は失っていると思います。ただ、私はやや悲観的ですが、選んだ者の責任として4年間は国会議員に託したわけですから、残りの2年間は受け止めるしかないと思います。
菅さんが辞めて、首班指名をやり直すのか、菅さんがそのままズルズルと復興が終わるまでという言い方をして居座るのか、まだ予測はできませんけど、それを許してしまったということで、私は2年間は甘受する。この間に、優先度の高いものから課題を少しでも解決してもらって、論点を整理するということだと思います。
工藤:武藤さん、さっきの暫定というのは、そこまで広い概念ですか。今の、社会保障から含めた課題解決ではなくて、あくまでも震災の復興についてですか。
武藤:本当は、一刻も早く選挙をするのが望ましいと思います。だから、任期満了選挙は当然あるのだけど、可能であればその前に選挙をするべきです。
増田:本当にまやかしだと思います。半年以内に、第二次補正予算案や公債特例法案とかだけ通して、それで辞めますみたいな話ならわかるけど。1つ付け加えれば、それだけ広い課題をやって暫定政権なのかという話なのだけど、2年の間に社会保障だって解決しないと間に合わないわけです。選挙ができるような状況であれば、公債特例法案とか震災でも二次補正ぐらいだけパッとやって、後は退いて、選挙で信を問え、ということになりますが、衆議院の一票の格差をめぐる定数の是正でも1年以上かかります。
工藤:宮内さん、今までの議論を踏まえていかがでしょうか。
宮内:増田さんはお若いな、と思います。2年間辛抱して待つということは、私のように歳をとってしまうと、2年は待てないなと思うわけです。
増田:それは、宮内さんこそお若い...。
宮内:2年間待つのかという話なのですが、先程言いましたけれども、メディアは、政治的な空白をつくるな、という論調です。しかし、それは本当かなと思います。確か、第二次世界大戦の最中に、イギリスで総選挙をやって政権交代をして、チャーチルは負けているのですよ。だから、国が戦争をしている時でも、そういうことをするというのが民主主義であるとすれば、政治的空白というのは、あまり議論に乗せるべきではないのではないかと。必要であれば、解散もある。必要であれば、政権の枠組みの変更もあり得るということで、私は、衆議院選挙で4年間どうぞ、という白紙委任をしたのではないと思っています。そして、やはり総理には解散権がありますから、解散も1つの方法としてあり得ると思います。
それから、私は、これだけの混乱状態であれば、解散は早くするべきだろうと思います。その前提として、やはり定数是正をやる。それから、最低限の震災対策の法案を通す。これは、やる気があれば1カ月、2カ月でできるのではないかと思います。そうして、解散をする。そうすると、実際に震災復興にしても、手段さえ与えておけば、行政能力はあるわけですから、きっちりやってくれると思います。
私は、これだけ政党政治が崩れている状況になっているのであれば、残念だけれども、国民が気付くまで、何度も解散しながら、政党というものをつくり上げていくということをしないと、本当の2大政党にはならないと思っています。しかし、前の自民党も相当ひどかったけれども、民主党がこんなひどい政党とは思わなかった。
2年前、国民の大部分は、自民党よりひどい政党はないだろうと思って民主党を選んだのに、もっとひどいのが出てきた、という感じですよね。ですから、今を底にして、国民に何度も何度も考えてもらうというプロセスを続けていかないと、日本の民主主義は変なことになってしまうのではないか、と思ってしまいます。
震災後の現実を直視するところから始めよう
工藤:言論NPOとしても今回の政治状況について考え方をしめさなければいけないと思っていたのですが、今回のみなさんの話は、まさに、私たちの問題意識に示唆を与えていただいたな、と思います。
今一番気になっているのは、現実はかなり厳しいという現実感が政治にないのではないかということです。福島原発の事故でも、放射能汚染で地域によっては半永久的にその場所には住めないという状況を分かっているのに、何となく乗り越えられるみたいな感じで、必要な情報公開もなかった。
専門家は東北の復興はかなり大変だよと、本音ではみなさん思っているわけです。電力の制約も出てくる。つまり覚悟を固めないと前に進まない状況になっている。それをごまかさずに今、リアリティというか、現実感を取り戻さなければいけない時期にきているのではないかと思っています。そこからスタートしなければ、この国の政治は変わらない、という感じがしています。
言論NPOは、そのためにも多くの人達が共有しなければいけない議論とか、考え方をどんどん公開していきたいと思っています。今日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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