田中弥生(独立行政法人 大学評価・学位授与機構准教授)
たなか・やよい
profile
東京大学社会基盤学専攻 寄附講座国際プロジェクト助教授、(株)ニコン、笹川平和財団、国際協力銀行をへて現職。国際公共政策博士(大阪大学)、政策メディア修士(慶応大学)。
外務省ODA評価有識者委員、内閣府公益法人制度改革委員会有識者委員、政府税制調査会特別参考人、参議院行政改革委員会 参考人などをつとめる。日本NPO学会副会長。
専門は非営利組織論と評価論。ピーター・F・ドラッカー氏に師事。
主な著書に『NPOと社会をつなぐ ~NPOを変える評価とインターメディアリ~』(東京大学出版会 2005年)、『NPO 幻想と現実 ~それは本当に人々を幸福にしているのか』(同友館、1999年)、『アジアの国家とNGO』(重冨真一編、分担執筆、明石書店2001年)、訳書にドラッカー・スターン著『非営利組織の成果重視マネジメント ~NPO、公益法人、自治体の自己評価手法~』(ダイヤモンド社、2000年)ほか。
言論NPOの「非政治性・非宗教性」に係る自己評価結果に対する意見 2009.6.27
1.2008年度 活動状況
2008年度の言論NPOの活動は大きく、・マニフェスト評価事業、・日中間の議論のプラットフォームつくりにむけた「東京-北京フォーラム」、・日本の将来像の形成に向けた「アジア戦略会議」事業の3本から構成され、そのほか、市民社会にかかる議論形成については、非営利組織評価研究会(田中研究室主催)のメンバーとして支援を行っている。出版事業、ウェブ論壇、会員向けフォーラムは上記事業にかかる情報発信の手段として行われる諸活動と位置づけられる。
また、会員拡大、募金活動は活動母体となる組織の基盤強化とともに、言論NPOの活動への参加の勧誘という意味で、広く市民に対して行う活動である。
2008年度を振り返ると、比較的多くの比重を投じて作業されてきたのは、・マニフェスト評価事業、・日中間の議論のプラットフォームつくりにむけた「東京-北京フォーラム」である。他方で「アジア戦略会議」事業については結果的に比重の置き方は低かった。また、市民社会にかかる議論形成については、当初は非営利組織研究会のメンバーとして議論形成と情報発信事業を支援事業という位置づけであったが、2009年度においては、言論NPOの主要テーマのひとつと位置づけられている。
出版事業、ウェブ論壇については順次実施されてきた。会員向けフォーラムについては経済危機が顕著になった年末より、マニフェスト評価事業の一環として行われたがものの、年間を通じてみるとその頻度は多くなかった。
会員拡大、募金活動、さらにはボランティア募集、インターン募集は、ウェブ上で常時行われている。
2.言論NPO「非政治性・非宗教性評価」結果について
2008年度の非政治性・非宗教性の自己評価結果を精査した結果、問題がないと判断する。優れた点
質の高い発言者を確保しており、議論の質について一定の高い評価を内外から得ている。 知識層を中心とした人々が、言論NPOの活動に種々のかたちで参加がなされている。(本業のほかに、社会参加をしたいと希望する知識ワーカーは増えている。しかし、その受け皿があるようでなかなかみつからない。齊藤誠教授コメント。) 議論の内容が即座に公開されている。また、そのまとめ方もわかりやすく、しっかりしているが、学生インターンの貢献が大きい。課題
1)事業整理・棚卸しの必要性2008年度実施していたミニ・ポピュラスなどの試みはいつ消滅したのか、その説明はアカウンタビリティ上必要である。このほかにも地方再生戦略会議など、中止なのか延期なのか不明な案件があるため、事業の整理を行う必要があると思われる。
2)より継続的・頻度高くフォーラムを開催する必要性
専門家や市民が集い、実際に意見を交換する機会は、ウェブや出版とは異なる強みをもっている。市民参加という視点からも、フォーラムはよりコミットメント性の強い、双方向の情報発信の方法である。2007年度に引き続き、フォーラムの頻度が低いというコメントをしたが、今後はより継続的にフォーラムを開催する必要があると思われる。
3)ウェブの更新と整理の必要性
ウェブの更新が久しく滞っている時期が何度かあった。また、ウェブが見難いという批判を外部者から時々聞く。情報量が多いわりには知りたい情報に容易に辿りつけない。早急に整理・再構築する必要がある。
4)会員拡大、募金活動のための工夫の必要性
38600のNPO法人の中には、寄付、ボランティア、会員を募集していない、あるいは掲載していない団体が過半数以上存在している。それと比較すれば言論NPOの募集の仕方は良い。しかし、5億円以上の認定NPO法人と比較すると、募金の仕方、メッセージの仕方には未だ、工夫の余地があると思われる。非政治性・非宗教性のチェック、ガバナンスや透明性のチェック、募金の際の倫理規定などを作成し、しっかりとアピールすることも必要である。
5)社会的支援収入(寄付、会費)の内訳の明記
言論NPOは8千万円以上の収入を寄付によって得ているが、現行の決算書および予算書の記し方では、寄付や会費の総額のみで、それが少人数の大口寄付によるものか、より多くの市民の寄付によるものなのか不明である。寄付や会費は、市民の支持を表わすものであるゆえ、社会的支援収入と言われることもある。そうであれば、言論NPOがどれだけ多くの市民から支えられているのかを示すために、あるいは特定の大口寄付者からの影響を受けていないことを説明するためにも、寄付者および会員数もあわせて示したほうがよい。
6)その他
2009年度には選挙が行われ、それを取り巻く、関係者の動きも顕著になってきた。
他の業界団体と同様、特定分野のNPOが業界として政治家に陳情活動を行い始めている。彼らはこれをアドボカシー活動と呼んでいるが、その実態は明らかに「陳情」である。言論NPOが開催する政治討論と「陳情」を混同する者もいる。この種の不透明な活動と、言論NPOの活動がどのように異なるのか、よりわかりやすい言葉で説明してゆく必要がある。