令和二年度の開始直後に、コロナウイルスの感染拡大に伴う1回目の緊急事態宣言が発出されたことで、言論NPOの活動を自粛することになり、6月末までは実質的な休業に陥りました。その後も、感染拡大が続き、2回目の緊急事態が出されたことから休業状態を続けながら、最低限の出勤者で事業に取り組む体制をとり、何とか活動を継続する形となりました。一方、コロナウイルスの影響から寄付金が減少することを想定し、金融機関から借入を行うと同時に、事務局体制も最低限の人員のみとし、事務所の移転を行うなど、最大限の固定費削減に努めてきました。一方、会員の継続を何とかお願いしたり、「ふるさと納税」による寄付を呼びかけるなどして、借入金の活用についても最低限にとどまるように取り組みました。
この間、最低限の議論発信と、これまで行ってきた日中、日韓、東京会議といった中核事業のオンラインでの開催をやり抜くこと、さらに、コロナ後を見据え、言論NPOの活動を抜本的に見直すと同時に、組織の立て直すための準備を始めました。さらに、コロナ後に向けてウェブサイトの立て直しの準備を行ってきました。
令和三年度の現在、緊急事態宣言下にあり、我々の活動の本格的な取り組みには至っていないが、昨年行ってきた活動の見直しを踏まえて、如何に実現するかということが、令和三年度の活動の重点になります。
1.組織基盤の強化
令和二年度の開始直後から、コロナウイルスの感染の影響もあり、私たちが取り組む多くの活動は自粛に追い込まれ、6月末までは事務所での活動は実質的な休業に陥りました。7月の議論再開以降も感染拡大が続き、2回目の緊急事態が出されるなどの状況が続いたため、休業状態を続けながら、最低限の出勤者で事業に取り組む体制をとり、何とか活動を継続する形となりました。
資金面では、コロナウイルスの影響から寄付金が減少することを想定し、金融機関からの借入を行うと同時に、毎月の経費を削減するため8月に事務所を移転し、月額100万円近くの削減を実施、さらにスタッフも最低限の人数に削減し、人件費を圧縮する等、固定費の削減に取り組みました。一方で、会員の継続を何とかお願いする等、収入を維持する努力を行った結果、借入金も最低限の活用に抑えることができました。
一方で、活動は継続しなければいけないこともあり、7月以降、わずかな人数ながら、オンラインを活用して27回のフォーラムを行い、各界の論者、82氏が出席し、議論には延べ約500人が聴衆として参加する等、必要最低限の議論を発信することはできました。
その結果、実質的な休業下でも言論NPOの活動は継続することになりました。
昨年度に続く取り組みとして、言論NPOの活動の参加者や協力者に対して、積極的な「ふるさと納税」による寄付を呼びかけ、令和元年度の10,215,000円から、9,800,000円に微減でした。
2.コロナ禍でも中核事業にオンライン形式で取り組んだ
コロナ禍ではあったものの、「東京-北京フォーラム」「日韓未来対話」「東京会議」といった中核事業については、オンラインを活用して必要最低限の人数で開催することになりました。
「東京会議2021」には世界を代表する10のシンクタンク代表と
世界の首脳級の政治リーダーが集まり議論を行った
米中対立やコロナの封じ込みが成功されていない中で世界各国は内向きになり、国際協調だけでなく世界の自由秩序自体が困難に直面する最中の3月、世界を代表する10のシンクタンク代表とラスムセン元NATO事務総長、ヴルフ元独大統領、ケビン・ラッド・元豪州首相等、世界の元首相や有力者10氏が参加して、米バイデン政権が提起した「私たちは国際協調と民主主義をどう修復するか」を全体テーマに6つのテーマで議論を行いました。
世界を代表する10のシンクタンク代表が集まり、「世界の民主主義国は国際協調と自由秩序の修復でどう連携すべきか」と題して議論されたWORLDシンクタンクD-10(WTD10)会議では、今回のコロナ危機は世界の国際協調の重要なテストとなったものの、その結果は世界が国際協調を失いつつあるということであり、その修復を世界は期待するが、修復ができるか現時点で答えを出すことは難しい、という点で合意しました。さらに、「民主主義の後退は放置すべきではない」という認識で一致し、それぞれの国が自国の民主主義の修復への努力を始めることと同時に、民主主義国の競争力の問題として民主主義の価値への攻撃に連携して対応するなどの、意見が出されました。
米中対立が深刻化する中、日米中韓4カ国の識者が「アジア平和会議」で議論
「アジア平和会議(日米中韓4か国対話)」は、2020年(令和二年)1月21日に、北東アジアに平和秩序を実現するための対話プラットフォームとして設立されました。世界でも有数のホットスポットが存在し、最も大きな紛争の危険性を抱える北東アジア地域全域に、拘束力が高い紛争防止や危機管理の仕組みを多国間で作り出し、この地域に持続的な平和を作りだす作業を行う歴史的な舞台を担うものです。
2021年2月24日に実施された2回目となる「アジア平和会議」は、日米中韓の4か国の安全保障・外交の専門家や実務者を交え、開催されました。新型コロナの世界的パンデミックによって、今回は初めてのオンラインでの開催となりましたが、アメリカの元海軍作戦部長や元国務次官補らが参加し、バイデン政権下での米中対立の行方から台湾海峡問題までハイレベルな対話が行われました。
今回の対話では、この地域に危機管理の仕組みの具体化や、将来の秩序が原則やルールに基づくものであること、さらに、この地域で目指すべき理念として不戦や法の支配、反覇権という昨年の合意が改めて確認されるなど、来年に向けた作業の土台が固まるものとなりました。
さらに、前日の23日に実施された「日米対話」では、日米間でさらに踏み込んだ形での安全保障分野における協力の必要性が指摘されるなど、率直な議論が行われました。
8回目で初めて、日韓両国の若者が議論する「日韓若者対話」を開催
令和二年度の「第8回日韓未来対話」はコロナ禍の影響もあり、10月16、17日の両日に初のテレビ会議方式での開催となりました。今回の「日韓未来対話」には形式上のホスト団体となった韓国側から政治家、外交、メディア、企業、学識者等26氏が出席し、日本からは二人の現役政治家を含む外交、自衛隊関係者、学識者など16氏が参加しました。
さらに今回の対話では日韓未来対話創設以来初めて、日韓の「若者対話」が開催され、「日韓の未来に希望はあるか」をテーマに若者らしい生活視点からの積極的な提案が相次ぎました。この「若者対話」には両国から40代までのメディア関係者、政府関係者、経営者、大学生、高校生など18氏が出席し議論が行われました。
日本では、コロナウイルス対策で会場での傍聴を制約したために、招待者はオンラインでの傍聴となったが、日本では約700氏が会議を視聴し、日本のメディアでは、共同世論調査を中心に対話も含めて数多くの報道がなされました。
多国間協力と自由貿易体制の維持に日中が共に責任を果たすことを合意
「第16回東京―北京フォーラム」は11月30日から2日間にわたって東京と北京を結ぶ初めてのオンライン会議方式で行われ、日中両国を代表する政治外交、経済、貿易、安全保障、メディア、感染、デジタル経済などの有識者約100氏が集まり開催されました。
今回のメインテーマは、「コロナ後に目指すべき世界秩序と日中両国の役割」です。
米中対立が深刻化し、世界の分断化をさらに進めています。新型コロナの感染拡大はその動きを加速化させ、多国間の国際協調は行き詰まりを見せています。今回のフォーラムはこのような歴史的な局面で、これからの世界の自由秩序や国際協調に日中がどのように協力していくべきか、という今までの日中の2国間協力の枠組みを超えた世界レベルでの日中協力について話し合うことを目的として行われました。
議論の成果文書として最終日に発表された「東京コンセンサス」では、大きく5点で日中が合意し、これらを踏まえて世界やアジアの未来を見据えて、民間の対話を通じて現在の困難に答えを見いだす努力を行うと同時に、日中の新しい協力に向けて一層の努力を行う決意を示しました。
フォーラムは日本側と中国側それぞれでオンライン配信され、両国の市民のべ2800人が傍聴・視聴し、各分科会の議論は傍聴者からの質疑応答を交えて進められました。また、フォーラムの模様は日中両国に加え世界のメディアでも報道され、フォーラムに先駆けて行われた世論調査と共に、広く世論に発信される機会となりました。
コロナウイルスの影響により、「東京-北京フォーラム」や「日韓未来対話」等の事業に対する企業の寄付は大きく減少することとなった一方で、両対話に対する171人の個人の方から約226万円のご寄付を頂きました。
日本の民主主義の点検作業は令和三年度に持ち越し
言論NPOが令和元年11月に、国民が自分の意思で政治に参加し、課題に責任を持つ、「自己決定ができる社会」が強い民主主義をつくり出すという考えのもと、日本の代表制民主主義を全面的に診断し、新たな時代に合った改革を提案するという決意を「私たちの宣言」として発表したものの、コロナ禍の影響から中断せざるを得ない状態です。
しかし、コロナ禍において、日本を始め、多くの民主主義国が、感染症という危機に対して政府や立法が対応できないことが露呈し、各国の統治機能が崩れていることが明らかになりました。こうした統治機能や民主主義を点検し、再度機能させるにはどうすればいいのか、令和三年度には議論や点検作業、さらに提案を行う予定です。
また、令和三年3月29日には、「第8回エクセレントNPO大賞」の表彰式が行われました。今回の審査には91団体の応募があるなど、「エクセレントNPO大賞」も8回の開催を経て、非営利団体に定着してきました。また、全国紙でも大きく取り上げられ、高い評価を得ています。
英語での継続的な発信の結果、世界で認知されたシンクタンクとして定着
言論NPOが行う全ての議論は、言論NPOの日本語サイトで公開し、約10,000人を超える有識者にもメールで伝えられます。さらに昨年度に続いて、継続的に英語のウェブサイトを充実させる他、発信を行ってきました。さらに、英語でのニュースレター配信を通じて、世界の有力シンクタンクやメディアや、世界の知識層、数百人にも直接伝えています。さらに海外の知識層にもオンラインでインタビューを行うなど、この一年間で、世界的課題についての世界各国の有力なシンクタンクとの議論や、海外有識者とのネットワークが大きく広がりました。こうした継続的な英語での発信の結果、ペンシルバニア大学のシンクタンク・ランキングで2020年は、中国やインドなどの政府系・企業系有力シンクタンクがひしめくアジア地域で44位となりました。また、新型コロナ関係の積極的なオピニオン発信が評価され、「新型コロナに対する政策対応」に積極的に取り組んだシンクタンクトップ50にもランクインしました。
言論NPOのウェブサイトを7月にスマートフォーンやタブレットでも見やすいようにリニューアルを行った。年間ウェブサイトの訪問者数(UU)は14万7,068人となり、昨年度より減少したものの、一人当たりのページビュー(PV)は増え、総PV数は44万9,195となった。ただ、活動が飛躍的に広がりながらも、発信がまだ十分でないという課題は継続しており、今後、一層の発信を増やしていくこと、さらに他のメディアと連携し、顧客層を広げると同時に、外部から顧客を誘引するかも、今後の課題となっています。
また、その時々のテーマに見合った公開型のフォーラムを実施したことです。令和二年度は日本の民主主義や世界の課題を軸に27回のフォーラムを行い、各界の論者、82氏が出席し、議論には延べ約500人が聴衆として参加しました。
こうしたウェブサイトの訪問者数やフォーラムの聴衆、アンケート回答への更なる増加を今後も図っていきます。