一方、組織基盤については、事務局体制の人員増などの組織強化と資金基盤の整備を掲げましたが、人員の増強には至っておらず、かつ1月から影響が出始めたコロナウイルスの影響もあり、資金基盤の整備についても非常に厳しい状況が続いています。
なお、積極的に「ふるさと納税」による寄付を呼びかけた結果、平成30年度の7,193,000円から、令和元年度は10,215,000円に増額となったことは1つの成果です。ただし、全体的に見れば組織基盤の強化と、資金基盤の整備は道半ばと言わざるを得ず、コロナウイルスの影響が大きく出る次年度は、さらなる厳しい動きが必要となります。
最後に、文藝春秋に対する裁判については、当該記事が客観的な事実に基づくものではないこと、その記事の内容が真実であると信じるに足りる相当な理由はないと断定し、本記事が事実無根のでたらめな記事であることを認める第一審判決が出されました。
また、昨年度の事業計画では、日本だけではなく世界の多くの有識者と連携し、そのための言論や発信を高めることを掲げ、「東京会議」の更なる発展とベストカンファレスへの仲間入り、そして米中が同じテーブルに参加する多国間対話の枠組みである「アジア平和会議」を立ち上げることを大きな目標として設定しました。
「東京会議2020」に関しては、コロナウイルスが世界中で蔓延するギリギリのタイミングの2月28日から3日間にわたり、世界の首脳・外相経験者3氏、世界10カ国のシンクタンクが参加して開催。米中対立が厳しくなり世界経済の分断が否定できない中でも、リベラル秩序を守りぬくという決意を10カ国のシンクタンクが合意しました。さらに、1月21日に日米中韓4カ国による対話メカニズム「アジア平和会議」も創設し、北東アジア危機管理メカニズムの向上、そして紛争解決や将来の安定的な平和の枠組みに向けて作業を開始することで合意しました。
その他、アジアの不安定化が進む中で、「第7回日韓未来対話」は日韓両国から31人のパネリストが参加し、100人の寄付者が膨張しました。「第15回 東京-北京フォーラム」は、日中両国から81人のパネリストが参加し、延べ2000人を超える聴取がフォーラムを傍聴しました。
米国ペンシルバニア大学のシンクタンクランキングで、言論NPOはアジアで昨年から順位を1つ上げて51位となりました。こうした活動は日本のメディアのみならず、世界のメディアなどからも注目され、2019年度は414件取り上げられました。
1.組織基盤の強化
令和元年の最も大きな組織課題は、言論NPO自体を日本の民主主義や世界的な課題を解決するための言論のプラットフォームとして機能させる組織、資金基盤をまず整えることと、さらにその体制を次世代に繋げていけるような、カウンシル化への移行を前提とした形で組織固めができるかどうか、ということでした。
組織体制
平成30年度に作り上げた組織体制やコンプライアンスについて徹底し、今年度も引き続き取り組みましたが、年度末に生じたコロナウイルスの影響もあり、必要最低限の人員での活動を余儀なくされているのが現状です。
会員組織の強化と資金基盤の多様化に向けて
次に、言論NPOの会員組織への取り組みについては、会員に対する基本的なコミュニケーションを深めるために、モーニングフォーラム(4回)、日本の将来課題や世界の課題を軸に25回の言論スタジオ・フォーラムを行い、各界の論者、80氏が出席し、議論には延べ約600人が聴衆として参加しました。
またこうしたフォーラムでは可能な限り、日本の有識者のアンケート結果を公表しており、9回のアンケートに対し2393人からご回答いただきました。
一方で、活動資金の調達については、一般の寄付に加え、企業寄付、財団等からの助成という3つの資金基盤の強化に取り組みました。「東京-北京フォーラム」や「日韓未来対話」などの事業に対する寄付や、国際交流基金などの財団に対する助成に注力しました。
特に日韓関係の悪化から資金不足により開催自体が危ぶまれていた「第7回日韓未来対話」は、開催に向けて少額の寄付を募り、270人を超える人にご寄付いただき開催することができたのは大きな成果でした。
また、29年度に続く取り組みとして、言論NPOの活動の参加者や協力者に対して、積極的な「ふるさと納税」による寄付を呼びかけ、平成30年度の7,193,000円から、令和元年度は10,215,000円に増額となりました。
2.3つの中核事業に取り組み、アジア51位のシンクタンクに
令和元年度は、言論NPOのシンクタンクとしての事業は、世界の課題解決、北東アジアの平和構築、民主主義の立て直しという3つの事業に集中して取り組みました。これらの取り組みでは、そこで、世界を代表するシンクタンクや知識人とのとネットワークや連携を強化し、多くの議論を国内だけではなく、世界に向けて発信する活動に力を注ぎました。
その結果、米国ペンシルバニア大学のシンクタンクランキングで、アジアで51位に入ることとなり、昨年の52位から1つ順位を上げる結果となりました。
「東京会議2020」未来宣言を発表し、G7議長国の米国政府に提出
今回の「東京会議2020」は、コロナウイルスが世界中で蔓延するギリギリのタイミングの2月28日から3日間にわたり、東京での開催となりました。今回の会議には、参加10カ国のシンクタンクに加えて、ドイツのクリスティアン・ヴルフ元大統領、フランスのユベール・ヴェドリーヌ元外相ら、世界の首脳・外相経験者3氏、も参加しました。
そして、3日間の議論の結果を踏まえて、「未来宣言」を採択し、閉幕しました。この「未来宣言」は、米中対立の出口は、あくまでルールに基づく自由秩序の下での米中、あるいは世界の共存でなければならず、その実現に向けて世界の民主主義国が協調して取り組む10カ国の決意を示したものです。
3日間の議論を通し、参加者らは、米中対立の深刻化、長期化が避けられず、世界経済の分断すら危ぶまれているが、今回の新型コロナウイルス流行のような世界の共通課題の解決は、各国の協力の上にしか成り立たず、その協力は双方向的なものでなければいけないことを確認しました。
その上で合意した同宣言では、世界の自由秩序を守り発展させるため、10カ国のシンクタンクが、世界が共存できる新しいルール作りや自国の民主主義の強化などについて、積極的な貢献を行うことを盛り込みました。
◆出席者:
【日本】工藤泰志(言論NPO代表)
【アメリカ】ジェームス・リンゼイ(外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデント)
【カナダ】ロヒントン・メドーラ(国際ガバナンス・イノベーション(CIGI) 総裁)
【インド】サンジョイ・ジョッシ(オブザーバー研究財団(ORF)理事長)
【シンガポール】オン・ケンヨン(S.ラジャトナム国際研究院(RSIS)所長)
【ドイツ】フォルカー・ペルテス (ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長)
【イギリス】ロビン・ニブレット(王立国際問題研究所(チャタムハウス)所長)※
【ブラジル】カルロス・イヴァン・シモンセン・レアル(ジェトゥリオ・ヴァルガス財団総裁)※
※ビデオメッセージでの参加
◆ゲストスピーカー
【日本】甘利明(自由民主党税制調査会長、元経済産業大臣)、牧原秀樹(経済産業副大臣)※、中尾武彦(前アジア開発銀行総裁)、宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
【アメリカ】ポール・トリオーロ(ユーラシアグループテクノロジー地政学担当部長)
【中国】柯隆(東京財団政策研究所主席研究員)、朱建栄(東洋学園大学教授)、呉軍華(日本総合研究所理事)
【ドイツ】クリスティアン・ヴルフ(第10代ドイツ連邦共和国大統領)※、ラインハルト・ドリフテ(ニューカッスル大学名誉教授)
【インドネシア】ハッサン・ウィラユダ(インドネシア元外務大臣)
【フランス】ユベール・ヴェドリーヌ(フランス元外務大臣)
【カナダ】ポール・ブルシュタイン(国際ガバナンス・イノベーション(CIGI)シニアフェロー)
◆政府関係者
【日本】山中修(外務省総合外交政策局参事官)
【アメリカ】ニコラス・ヒル(在日米国大使館 経済・科学担当公使)
◆WAC関係者
古城佳子(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授)、藤崎一郎(日米協会会長、元駐米大使)、近藤誠一(近藤文化・外交研究所代表、元文化庁長官)、内野逸勢(大和総研金融調査部主席研究員)
日米中韓4カ国による対話メカニズム「アジア平和会議」を創設
言論NPOは平成25年に中国との間で合意した「不戦の誓い」以来、北東アジアに平和秩序を作るという目標を掲げ、中国や米国、そして韓国との二国間の対話に取り組んできました。
そして平成30年、言論NPOは中国との間で北東アジアの平和秩序を実現するため、多国間の協議を民間で始めること、さらに北東アジアで目指すべき平和原則が、「不戦」と「反覇権」とすること等を柱とした「平和宣言」を合意しました。これを軸に私たちは、既に協議を始めていた米国や韓国と一緒に、2020年1月21日、日米中韓4カ国による対話メカニズム「アジア平和会議」を創設しました。 北東アジアでは、軍事力増強を続ける中国と日米同盟の間で、構造的な対立と緊張があり、様々なホットスポットが存在しているにも関わらず、安全保障に関する多国間の協議枠組みすら存在していない状況にあります。加えて、この地域では紛争を起こさないための危機管理のメカニズムも不十分であり、緊張が高まる中で偶発的な事故からの紛争を起こさないための危機管理や事故防止を強化することは急務です。
今回立ち上げた「アジア平和会議」は、この不安定な地域に、紛争の可能性を抑制する仕組みを強化するための共同の作業や、将来的な平和に向けた多国間の協議をハイレベルな実務経験者間で行う対話枠組みです。米中の対立が深刻化する中でも、多国間の協力のもとに米中が共存し、地域の安定的な平和を支える仕組みを作るための歴史的な挑戦といえます。
日韓関係が非常に厳しい状況の中、
270人を超える人の寄付で開催できた「第7回日韓未来対話」
令和元年度の「第7回日韓未来対話」は6月21、22日の両日に東京で開催されました。昨年、韓国・ソウルで行われた「第6回日韓未来対話」以降、慰安婦合意に基づき設立された財団の解散、レーダー照射事件での日韓政府間の応酬、そして韓国最高裁による日本企業に対する元徴用工への賠償・資産差し押さえ命令などが、いずれも韓国内で起こり、65年の日韓国交正常化での日韓関係の基礎となる政府間条約のあり方を揺さぶる事態を招いています。韓国政府はそれらに対する責任ある対応をまだできておらず、これに対して日本側は厳しい見方を示しています。
こうした状況だからこそ、私たちは本音で意見をぶつけ合う舞台が今の両国間に必要だと考えました。多くの日韓の対話が延期に追い込まれる中、あくまでも開催にこだわったのは、困難がある時だからこそ市民側の対話を中断してはいけないという強い思いでした。しかし、日韓関係が非常に厳しい中、助成金や多くの寄付が打ち切られる中で、270人を超える一般の寄付の後押しで行われたものであり、寄付で応援して頂いた方も含め、一般の方が参加する中で開催されたものです。
公開の対話が行われた6月22日は、日韓両国政府が日韓基本条約に調印した54年前の記念日であり、まさにこの65年体制が問われる中で、私たちは「日韓関係をどう立て直すのか」をテーマに議論しました。
多国間協力と自由貿易体制の維持に日中が共に責任を果たすことを合意
「第15回東京―北京フォーラム」は2019年10月25~27日の3日間にわたり、北京市にて、日中両国を代表する政治家、経済人、防衛関係者、学術専門家、ジャーナリストなど約80氏の参加で開催されました。特に、中国側からは王毅外交部長が現役の国務委員として初めて参加し、中国政府がこのフォーラムの重要性を一層高く位置付けていることを印象付けました。
議論の成果文書として最終日に発表された「北京コンセンサス」では、日中両国が同じ世界の重要国として、共に世界、特にアジア太平洋地域の安定、発展と繁栄のために責任を有していることを合意。そして、日中両国が保護貿易主義に反対する立場を共有し、より開放的で、ルールに基づく自由貿易体制を貫くためにも、その内容をアップデイトし、それに見合った構造改革をそれぞれの国で進めていくことを確認しました。
今回のフォーラムには両国の市民のべ2000人近くが来場し、各分科会の議論は彼らとの質疑応答を交えて進められました。また、フォーラムの模様は日中両国に加え世界のメディアでも報道され、新時代における日中連携の重要性や、日中の協力発展に向けた両国有識者の提案が、広く世論に発信される機会となりました。
日本の民主主義の点検作業に取り組むことを宣言
言論NPOは昨日11月19日(火)、「世界の自由秩序と民主主義の再建に問われた私たちの責任」と題し、東京会議のプレフォーラムも兼ねた創立18周年フォーラムを開催しました。
今回のフォーラムには、デンマーク首相や前NATO事務総長を務め、バイデン前米大統領やブレア元英首相らとともに「コペンハーゲン民主主義サミット」を立ち上げたアナス・フォー・ラスムセン氏が基調講演を行いました。
このフォーラムのためだけに来日したラスムセン氏は、自由と民主主義を守り推進する上で、世界の民主主義国による強固な同盟が必要だと主張。そして、安定した民主主義国である日本は、民主主義がいかに前進と繁
栄、平和をもたらすかを示しているとし、「日本は、世界全体に民主主義の強さを示すことができる」と期待を示しました。
フォーラムの最後には、言論NPOが10月に発足させた「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」から、内山融・東大大学院教授と吉田徹・北大教授が登壇。国民が自分の意思で政治に参加し、課題に責任を持つ、「自己決定ができる社会」が強い民主主義をつくり出すという考えのもと、日本の代表制民主主義を全面的に診断し、新たな時代に合った改革を提案するという決意を「私たちの宣言」として発表しました。
さらに、令和元年12月11日には、「第7回エクセレントNPO大賞」の表彰式が行われました。今回の審査には97団体の応募があるなど、「エクセレントNPO大賞」も7回の開催を経て、非営利団体に定着してきました。また、全国紙でも大きく取り上げられ、高い評価を得ています。
英語での継続的な発信の結果、シンクタンクとして世界で認知された
言論NPOが行う全ての議論は、言論NPOの日本語サイトで公開し、約10000人を超える有識者にもメールで伝えられます。さらに昨年度に続いて、継続的に英語のウェブサイトを充実させる他、発信を行ってきました。さらに、英語でのニュースレター配信を通じて、世界の有力シンクタンクやメディアや、世界の知識層、数百人にも直接伝えています。
この一年間で、世界的課題についての世界各国の有力なシンクタンクとの議論や、海外有識者とのネットワークが大きく広がりました。こうした継続的な英語での発信の結果、ペンシルバニア大学のシンクタンクランキングで、アジアで51位となり、昨年から1つ順位を上げる結果となりました。
言論NPOの年間ウェブサイトの訪問者数(UU)は19万2,345人となり、昨年度より微増となりました。ただ、活動が飛躍的に広がりながらも、発信がまだ十分でないという課題は継続しており、今後、一層の発信を増やしていくこと、さらに他のメディアと連携し、顧客層を広げると同時に、外部から顧客を誘引するかも、今後の課題となっています。
また、その時々のテーマに見合った公開型のフォーラムを実施したことです。令和元年度は日本の将来課題や世界の課題を軸に25回の言論スタジオ・フォーラムを行い、各界の論者、80氏が出席し、議論には延べ約600人が聴衆として参加しました。
またこうしたフォーラムでは可能な限り、日本の有識者のアンケート結果を公表しており、9回のアンケートに対し2393人からご回答いただきました。
こうしたウェブサイトの訪問者数やフォーラムの聴衆、アンケート回答への更なる増加を今後も図っていきます。
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