「令和の米騒動」はなぜ起こったか

2025年8月1日

コメ生産者の利益を最優先に考えてきた日本農政の失敗

 議論では、供給サイドの利益のために米価を下げないことを最優先に考えてきた日本農政のあり方が、コメ需要の過少評価も招いたという点で三氏は一致。同時に、需要量予測や生産量の算定根拠となっていた統計自体が「全ておかしい」ものであるという厳しい評価が寄せられました。

 また、1961年以降、世界のコメ生産は3.5倍に増加しているのに対し、生産量を増加させるのではなく減反によって4割も減らし、しかも農業従事者の高齢化と後継者不足によって担い手が不足している日本のコメには、未来に向けた展望がないという悲観的な見通しも示されました。

 山下氏は、こうした危機的状況の背景には、高米価維持を核心的な利益とする農協、自民党農林族、農林水産省という農政トライアングルの存在があるものの、共産党も含めた野党もすべて集票のために高米価維持には賛成していたという実態も指摘。こうした既得権益に基づく日本農政の構造を転換し、世界に対して競争力のあるコメづくりをしていかないと、未来はないという点で各氏は一致するなど、日本のコメ問題の最先端にいる専門家たちは、日本の今後の農政そのもののあり方についての根本的な問題を投げかけました。

◆参加者発言要旨

大泉一貫氏(宮城大学名誉教授)

 コメが不足し、米価が高騰する中で、卸売業者らは備蓄米を流すように政府に要請したが、政府はこれを怠った。江藤拓前農水相に至っては、食糧法には価格の安定は『書いていない』などという答弁を繰り返した。流通が悪い原因を作ったのは備蓄米放出を怠った政府であり、それは不足という原因を見間違えた政府の責任だ。さらに、農水省のコメに関する統計にも大きな問題がある。生産、需要、流通、在庫全てがおかしい。

 人口が減少していく中ではいくらインバウンドが増えたとしても国内需要には限界があるため、輸出に目を向けることは正しいし、日本が参加できる余地は十分にある。そのためにも農家の生産基盤の強化が必要だ。

 

西川邦夫氏(茨城大学学術研究院応用生物学野教授)

 農水省が、今年6月末までの1年間のコメの需要を710万トン程度と試算したものの、昨年公表した当初の需要見通しは673万トンであり、約40万トンも増加している。私自身、農水省の統計は正確なものだと信頼してきたが、40万トンも上振れすることはちょっと考えにくい。統計データの正確性さらには農水省の分析能力自体に懸念がある状況だ。

 輸出増のために政府がやるべきことは、何といっても通商交渉だ。相手国の関税を下げることなどは農家にはできないので、政府はそこに集中してほしい。


山下一仁氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

 政府はコメの増産を打ち出したが、需要増分に対応するだけの増産であり、実態は何も変わらない。農水省はなぜこれまで『コメは足りている』と嘘を言っていたのか。コメが足りなければ備蓄米を放出しなければならなくなる。備蓄米を放出すると米価が下がってしまう。これが嫌だから絶対にコメが不足していることを認めたくなかったのだ。

 高米価維持は、農協、自民党農林族、農林水産省という農政トライアングルの核心的な利益だが、農業政策については自民党から共産党に至るまでみんな与党であり、野党がいない。

 1961年以降、世界のコメ生産は3.5倍に増加しているのに、日本はわざわざ減反補助金をつけて4割も減らした。徹底的な保護によって外国米との競争にさらされてこなかった日本のコメの国際競争力を高めるためには減反廃止と「主業農家に限った直接支払い」が必要だ。これで零細な兼業農家から主業農家の方に農地が集積し、規模が拡大してコストが下がるので、米価も下がって国際競争力も上がる。