中国、ロシア、北朝鮮の連携は、本当に一つの陣営を形成する段階まで進んでいるのか。ロシアと北朝鮮は2024年に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、北朝鮮はロシアによるウクライナ戦争に兵員を派遣するまで関係を深めた。中国とロシアも長期にわたって戦略的連携を強めている。そして今年6月には、中国の習近平国家主席が7年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩朝鮮労働党総書記と会談した。ロ朝条約には相互防衛条項が盛り込まれ、北朝鮮軍がロシア側で戦闘に参加したことも確認されている。
こうした動きを見ると、中露朝が米国や日韓に対抗する新たな「三国陣営」を形成しているようにも見える。
しかし、今回の言論フォーラムで専門家3氏の議論から浮かび上がったのは、より複雑な構図だった。
山添博史・防衛研究所研究者、堀田幸裕・霞山会主任研究員、末次富美雄・元海上自衛隊海将補はいずれも、現時点で中国、ロシア、北朝鮮が一枚岩の三国同盟を形成しているとは見ていない。むしろ、中露、露朝、中朝という三つの二国間関係が異なる速度と目的で動き、それらが重なり合っているという認識を示した。
一方で3氏が共通して警戒したのは、三国が正式な同盟を形成しているかどうかとは別に、露朝の急接近によって北朝鮮の軍事力や外交的立場が変化し、それが中国の行動にも影響を与え始めていることである。
さらに台湾海峡、朝鮮半島、日本海という複数の地域で危機が連動する可能性も無視できなくなっている。
問題は、中露朝が「一つの陣営」になったかどうかではない。三国の利害が完全に一致しなくても、それぞれの行動が別の国の行動を変え、結果として北東アジアの安全保障環境そのものを変化させる可能性が出てきたのである。
I言論フォーラム「中国、ロシア、北朝鮮の連携はどこまで進んでいるのか」
参加者:末次富美雄(実業之日本フォーラム編集委員、元海上自衛隊情報業務群司令)
堀田幸裕(一般財団法人霞山会主席研究員)
山添博史(防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長)
司 会:工藤泰志(言論NPO代表)
末次富美雄氏(実業之日本フォーラム編集委員、元海上自衛隊情報業務群司令)発言要旨
・習近平国家主席が北朝鮮を自ら訪問した背景には、急速に進展する露朝関係への中国の警戒感がある。特に、今回中国側が北朝鮮の「非核化」に言及しなかったことは、中国の対北朝鮮姿勢の変化を示す重要な点である。
・北朝鮮がすでに核兵器を保有している現実を踏まえれば、最終目標としての非核化を維持しつつも、当面は「現在ある核をいかに使用させず、管理するか」という段階に政策の重点が移りつつある。
・露朝関係は、北朝鮮による兵員派遣やミサイル・弾薬の供給など、具体的な軍事協力にまで進んでおり、実態として「同盟に近い」関係にある。
・一方、中朝間の「軍事交流」は現時点では交流の段階にとどまっている。中国には、ロシアとの協力を通じて北朝鮮の軍事力がどの程度向上したのかを把握する狙いもあると考えられる。
・中露朝が一体化した三国同盟を形成しているとは考えておらず、現状はそれぞれ異なる二国間関係が重なっていると見るべきである。中国にとっても、自らの影響下にあった北朝鮮が独自に行動し、存在感を高めることは必ずしも望ましい展開ではない。
・三国の中で、露朝軍事協力から最も大きな利益を得ているのは北朝鮮である。ウクライナ戦争への関与によって実戦経験を積むとともに、弾道ミサイルなどを実戦で使用し、自国兵器の性能を検証・改善する機会を得ている。
・ただし、北朝鮮も大きなリスクを負っている。大量の弾薬や弾道ミサイルの供与は自国の軍事能力や抑止力を低下させる可能性があり、兵員の多数の死者が国内にどのような影響を及ぼすのかも注視する必要がある。
・ロシアとの関係強化などによって北朝鮮の交渉力は以前より高まっており、非核化を交渉の前提としても北朝鮮が応じる可能性は低い。したがって、非核化という最終目標は下ろさず、現実の核戦力をどう管理するかを含めた段階的な交渉を考える必要がある。
・中露朝の協力が進む中、日本にとっては日米韓の連携強化が不可欠である。ただし、日韓の防衛当局間にはレーダー照射問題などを背景とした不信が残っており、実効的な安全保障協力を進めるには信頼関係の再構築が課題となる。
・中露朝が事前に連携して同時に軍事行動を起こす可能性は高くないものの、台湾有事を北朝鮮などが「好機」と捉え、朝鮮半島で別の危機を引き起こす可能性は考慮すべきである。日本は南西諸島への備えと同時に、日本海方面の警戒監視を継続し、複合事態に備える必要がある。
堀田幸裕氏(一般財団法人霞山会主席研究員)発言要旨

・中国は露朝接近への評価を公式には明らかにしていないが、2024年の戦略的パートナーシップ条約によって両国が事実上の同盟関係にまで急接近したことには、強い警戒感を持っていると考えられる。
・中国が北朝鮮との「軍事交流」に改めて言及した背景には、露朝間の軍事協力が中朝関係に先行して進んだことへの危機感がある。中国としては、北朝鮮に対する自国の影響力が相対的に低下することを警戒している。
・豆満江を通じた中国の日本海進出について、中露は三者協議の必要性を確認しているものの、中国が具体的に何を目指しているのかは明確ではない。1991年の中ソ間の取り決めも、中国船舶の航行をソ連側の許可の下で認める程度の内容にとどまっている。
・豆満江では河口をロシアと北朝鮮が押さえており、中国単独では日本海へのアクセスを確保できない。さらに露朝間の新たな橋梁建設もロシア主導で進められており、この地域では中国の発言力が必ずしも強いわけではない。
・中国が日本海へのアクセスを将来的な軍事利用まで視野に入れている可能性は否定できないが、現時点で具体的な三国協力が進展しているとは言い難い。豆満江をめぐる動きからも、中露朝それぞれの利害には違いがあり、「三国連携」はまだ実態を伴っていない。
・北朝鮮には現時点でトランプ大統領の対話提案に応じる大きなインセンティブはない。一方で、米国との「平和共存」の可能性を完全に排除しているわけでもなく、中露陣営に全面的に加わることも決断していない。米国、中国、ロシアとの関係を見極めながら様子を見ている段階にある。
・北朝鮮が米国との交渉に慎重なのは、米国の政策が政権交代後も継続する保証がないためでもある。ハノイ会談の経験もあり、交渉が途中で覆されることへの警戒感がある上、現在は中露との関係が良好であるため、北朝鮮側に交渉を急ぐ必要性も乏しい。
・日韓関係は、レーダー照射問題直後などの深刻な時期と比べれば、防衛・安全保障の現場を含めて改善している。現在の日米韓協力における大きな不確定要因は、日韓関係そのものよりも、むしろ米国の政策や関与のあり方にある。
・北朝鮮は近年、中国の台湾政策に同調する姿勢を以前より明確に示すようになっている。ただし、中朝露には共同軍事行動の経験や態勢がなく、台湾有事と連動して北朝鮮が実際に軍事行動を起こす可能性は高くない。一方、台湾問題を日本や米国への牽制材料として利用する可能性はあり、日本側も複合事態への具体的な対応を検討する必要がある。
・北朝鮮の「非核化」という最終目標は維持すべきだが、それだけに固執すれば交渉の入り口をつくれない。制裁だけでは北朝鮮を交渉に追い込めないことも明らかになっており、非核化の原則を維持しながら、北朝鮮が応じ得る新たな交渉の糸口を模索する必要がある。
山添博史氏(防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長)発言要旨

・中露関係は恒常的な戦略的連携を続けており、両国は「同盟」ではなく「同盟を超えた戦略的パートナーシップ」と位置付けている。一方、2024年に締結された露朝の戦略的パートナーシップ条約は、実態として軍事同盟とみてよい。ただし、ロシアが北朝鮮を最重要の同盟国として位置付けているわけではない。
・北朝鮮は実際に兵員を送り、ロシアのために戦っているため、ロシアも軍事技術の供与など一定の見返りを与える可能性が高い。ただし、ロシアには北朝鮮を防衛するため朝鮮半島に本格的に軍事介入する余力は乏しく、有事に米韓同盟と戦うところまでコミットするかは別問題である。
・露朝関係は今後も一定程度続くとみられるが、現在の急接近はウクライナ戦争という特殊な状況によるところが大きい。戦況を打開したいロシアが北朝鮮の兵員や軍事協力を必要としているためであり、現在の「熱い紛争」が終われば、北朝鮮との協力を現在ほど必要とする動機は弱まる可能性がある。
・中露朝が一体となった三国同盟を形成しているとは考えていない。中露関係は継続的に強化されている一方、中朝関係の進展は限定的で、露朝関係だけが戦争を契機に急速に接近しており、三つの二国間関係はそれぞれ異なる速度と論理で動いている。
・露朝接近によって、北朝鮮に対する中国の影響力は相対的に低下している。中国は露朝による対北朝鮮制裁体制の形骸化などを必ずしも歓迎していないが、ロシアの行動を止めることもできず、むしろ露朝の急激な動きによって中国自身の行動が変化させられている。
・ロシアは北朝鮮の非核化について早い段階から「現実に即していない」との立場を取っており、北朝鮮の立場を支援しながら中国との連携を続けている。このため、北朝鮮を非核化へ動かすことにロシアが積極的に関与する可能性は低い。
・日米韓には政策や認識の違いがあるものの、その「ほころび」を中露朝側に見せないことが重要である。日韓の情報共有など、可能な分野から協力を積み上げることで、北朝鮮などに「隙がある」と判断させない状況をつくる必要がある。
・中露朝の脅威を「同盟か否か」「三国が一致しているか」という基準だけで判断すべきではない。三国は強固な相互信頼がなくても、必要な時には協力できる一方、連携していない時にも各国が独自に問題を引き起こし得る。重要なのは、三国の一体性ではなく、それぞれがどのような危機を引き起こす能力と動機を持っているかを見極めることである。
・台湾海峡と朝鮮半島で危機が連鎖する「複合有事」に備える必要がある。特に北朝鮮については、核・弾道ミサイルだけでなく、通常戦力やドローンを使った閾値以下の挑発にも注意すべきであり、誤算によって軍事的エスカレーションが生じる危険がある。
・北朝鮮がロシアの行動から「挑発しても米国や同盟国は十分に対応できない」と学習すれば、新たな危機を引き起こす可能性が高まる。このため欧州と北東アジアの安全保障を切り離さず、各地で既成事実化や挑発を許さない連携が必要である。同時に、北朝鮮の非核化という原則は維持しながらも、一気の解決を急がず、状況とタイミングを見極めて実行可能な措置を積み重ねるべきである。