米国はもはや従来の米国ではない 勢力圏容認と東アジア関与後退に警鐘――言論フォーラム「米国の国家安全保障戦略をどう読むか」
I 言論フォーラム「米国の国家安全保障戦略をどう読むか」
参加者:河野克俊(元統合幕僚長)
田中均(日本総研国際戦略研究所特別顧問)
前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部教授)
司会者:工藤泰志(言論NPO代表)
米国が2025年12月に公表した新たな「国家安全保障戦略」は、従来の価値重視外交から大きく転換し、「勢力圏」を前提とする姿勢を鮮明にしている。これを、日本外交の視点からどう読むかが今回の議論の目的である。
まず、3氏からは、米国はもはや民主主義の拡大を掲げるのではなく、中ロと取引しながら互いの影響圏を認め合う方向に傾いているとの指摘が相次いだ。
台湾防衛についても「力による現状変更は許さない」との明確な表現は弱く、同盟国の自助努力を求める姿勢が強まっている。これにより、台湾と東アジアの安全保障を米国が全面的に担う時代は終わりつつあるとの見方が示された。
日本にとっては、日米同盟を維持しつつも役割拡大と外交の多層化を進める必要があり、特に高市首相の訪米を前に、台湾の戦略的重要性を経済・安全保障両面から説くと同時に、中国との対話の道筋も模索すべきだとの提言がなされた。米国の変質は不可逆的との認識も広がり、日本外交は正念場を迎えている。
河野克俊氏(元統合幕僚長)発言要旨
・西半球は自分たちのテリトリーだと書いてあるが、これは逆に言えば他の大国のテリトリーも認めるということだ。民主主義のテリトリーを広げようとしてきたこれまでの米国のスタンスとは明確に異なる
・ロシアと中国が反発していないのは、それぞれウクライナ、台湾をテリトリーとして認めてもらえるのであれば、中南米から排除されてもかまわないと考えているのかもしれない
・トランプ大統領の台湾に対する強い関心はこの国家安全保障戦略から読み取れない
・台湾と東アジアの安全保障について米国が全面的に背負うという時代は終わった
・「米国が全部守ってくれる」という意識からはもう卒業し、日本の役割を増やしていくべき
・トランプ氏に台湾防衛の重要性を認識させるためには、経済・安保両面から台湾の戦略的重要性を説くことが必要になる
・西側のリーダー、そして世界の警察官という米国が特殊な米国であって、今は本来の米国に戻りつつあるのではないか
田中均氏(日本総研国際戦略研究所特別顧問)発言要旨
・私たちが知っている米国ではなくなってしまった。この国家安全保障戦略には同盟国を大事にするという意識はほとんどない
・中ロを正面に据えて安全保障戦略を語っていない。もはや中ロと戦争をするつもりはなく、米国は中ロと取引しながら互いの勢力圏を認め合うつもりだ
・東アジアに対するコミットメントが極めて薄く、共に価値を守っていこうという姿勢も米国からなくなった今、日米同盟は従来通りのままでいいのか
・米国も、中国と話ができない日本と役割分担をする気にはならない。高市首相訪米前に中国と一定の和解の道筋を付けるべき
・主権不平等な平和協議会は、近代的な国家関係の概念から全く成り立たない仕組みだ。いわゆるならず者国家が入ってくるかもしれないし、普遍性を持つことはないだろう
前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授)発言要旨
・トランプ大統領がやりたいことを周囲が忖度してまとめたものが、この安全保障戦略であり、トランプ安全保障の決定版といえる
・西半球に対する干渉拒否のみならず、帝国主義的な領土拡張を目指す姿勢は、モンローというよりもマッキンリー大統領の時代に戻ることを目指している
・支持者が喜ぶのは西半球だ、という計算がトランプ大統領にはある。政治的な打算も今回の戦略の背景にはある
・第1次トランプ政権時には対中国重視派が強かったが、今は西半球派が強くなっている結果が今回の国家安全保障戦略だ
・米国内には「まだG2ではないし、中国を止めようという動きにも脈はある」。高市首相訪米で中国に対して融和的にならないように釘を刺すべき
・平和協議会が「まとも」な組織になるのであれば、国際秩序を担うことはあり得が、そうした転換がトランプ政権残り三年で起こりそうにない
・米国にとってプラスになる国際組織であれば維持した方がいいと考える米国人は多く、国連に利用価値があるのであれば今後も脱退はしないだろう