高市首相の答弁に対しては、厳しい評価で五氏は一致:言論フォーラム「存立危機事態、何が問題だったのか」

2025年12月26日
首相答弁は従来の政府の立場や見解を変更しているものではない。事態を収拾する上では防衛省の案件にせずに外務省の案件として処理すべき。
山口壯氏(自民党国際局長、衆議院議員)

「(台湾有事が)存立危機事態に当たるのか」という質問に対して、高市首相は「存立危機事態になり得る」と簡単に答え過ぎた。通常、こうした(安全保障の機微に触れるような)場合には日本側の手の内を明かすことになりかねないので、「事柄の性格上答弁を差し控えさせていただきます」などとしたり、具体的な国名を挙げないようにすることが、歴代内閣の「作法」だったが、それを首相自身の言葉で語ったというところに、(日中間の)すれ違いの原因があるのかもしれない。
今回の答弁は台湾への攻撃があった場合、即座に日本の集団的自衛権の対象になり得ると言ったように取られかねないところはあるので、中国側が驚くのは無理からぬところはある。
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有事にどうするのか、日本の首相がいずれは言わなければならないことを言ったのが高市答弁だ。

香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)

元自衛官の立場から言うと、台湾有事と朝鮮半島有事は必ず起こる。その時に日本はどうするのか、ということは、いずれかの総理大臣がいずれかの時点で言わなければならないことでもある。タイミングの是非はともかくとして、高市首相はこの答弁でそれを言ったという見方もできる。現場にいる自衛隊にはそういう見方をしている人が多いだろう。 
仮に、今回の答弁を撤回したとしたら、いざX年後に台湾有事が起きた際に自衛隊が動いた場合、中国に「あの答弁は撤回したはずではないか」と言われて日本の動きを狭められてしまう。答弁撤回がそういう言質となってしまい、国家意思の選択のフレキシビリティを確保できなくなる懸念があるので、撤回はすべきではない。
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不正確で軽率な高市答弁。対立の長期化が予想され、対話もできない中では、ダメージコントロールをしつつ、威勢の良い言葉で対立を煽るようなことだけは避けるべき。
佐藤武嗣氏(朝日新聞論説主幹)
今回の高市首相の答弁には二つの問題がある。一つは、答弁内容が不正確であるということ。 もう一つは軽率さだ。
台湾周辺で海上封鎖が行われ、武力攻撃が行われているという状況においては、存立危機事態に発展していく蓋然性はゼロではない。しかし、様々な前提に言及せずに「どう考えても存立危機事態になり得る」と言ったのは不正確ではないか。まず、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」、すなわち米軍の軍事介入を前提としているが、答弁の前後では触れていない。また、「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことも前提となっているため、ただちに「どう考えても存立危機事態になり得る」としてしまうのは論理のギャップがある。

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安全保障上当然視されてきたことと外交原則のずれが埋められていない実態の中から表れたのが今回の高市答弁だった。
I 神保謙氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)

今回の高市首相の答弁は、日本として何か新しい基準を戦略的に伝えるような意図を持ったものではないし、中国の「核心的利益」のレッドラインを踏み越えたという認識をすることもないまま従来からの持論を語ってしまったという意味では、「放送事故」といえる。
では、なぜ高市首相は台湾有事を「存立危機事態になり得るケースだ」と言うことが、それほど重大な問題になると認識していなかったのか。安保法制成立から10年以上が経過し、その間台湾海峡に関するシミュレーションやそれに基づく日米合同演習は毎年のように実施しており、台湾有事はもはや日米同盟の基本的な基本動作の一部であって、そこに存立危機事態が絡むというのは安全保障のコミュニティから見ると半ば当然となっていた。
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官邸が機能していないことが高市答弁の背景にある。政権に中国に対する戦略がないことも問題だ。
I 牧原出氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)

高市氏は、首相就任以前から奔放な発言が目立っていたが、「実際に首相になったら言わないだろう」ということを言ってしまったのが今回の答弁だ。
これは高市首相のリーダーシップ自体の問題もあるが、官邸が機能していないことにも原因がある。内閣官房が作成していた首相の答弁資料には今回の答弁に該当する部分は存在せず、台湾有事について「政府として答えない」とも明記されていたと報じられているが、おそらく高市首相は「こういうことは言ってはならない」といったレクチャーを事前に受けていなかったのではないか。それが詰めの甘さにもつながったと思うが、そうした点の改善がなされなければ、今後も類似の問題が繰り返される可能性はある。