I「私たち自身が変化をつくらなければならない」――工藤泰志・言論NPO代表
主催者を代表して開会挨拶に立った言論NPO代表の工藤泰志は、まず現在の世界と日本が、ともに大きな転換点に立っているとの認識を示した。
世界では大国による「力の政治」が強まり、戦争を止めることも、これまで国際社会を支えてきたルールを維持することも難しくなっている。その結果、多くの人々が、1年先、2年先の世界さえ見通せない不安を抱えている、と工藤はまず指摘。
その上で紹介したのが、言論NPOが今年4月、世界40カ国のシンクタンクと共同で実施し、世界を代表する研究者約400人が回答した緊急アンケートだった。工藤は、この調査から、世界全体を覆うルールをすぐに再構築することは難しくても、それぞれの国や地域が主体的に努力し、個別の課題について協力やルールをつくり直していくことはできる、という認識が見えてきたと説明した。
ここで重要なのは、自ら行動することだと工藤は強調。世界が自然に良い方向へ変わるのを待つのではなく、自分たち自身が変化をつくらなければならない。そして、それは日本社会も同じだと語った。
世界の将来を予測することは難しい。しかし日本では、人口減少や少子高齢化を考えれば、何もしなければ厳しい未来が待っていることはすでに見えている。それにもかかわらず、多くの人が将来に不安を感じている背景には、その状況を打開する新しい変化がまだ十分に生まれていないという問題があることを工藤は懸念。
これまで「エクセレントNPOをめざそう」という運動では、市民社会がそうした変化の担い手になることを目指してきた。そして現在、地方自治体や地域のリーダーの中にも、現実の課題を前に自ら動き始める人々が現れている。工藤は、「新しい変化をこの日本で起こせるのか。そのスタートをこの会議が切れるのか」と問いかけ、今回の大会がその第一歩になることへの期待を示した。
I「人口減少を嘆くのではなく、地域の新しい価値をつくる」――三村明夫氏
続いて来賓として挨拶した東京商工会議所名誉会頭の三村明夫氏は、自身が議長を務める「未来を選択する会議」でも、人口減少の中で活力ある日本を将来に残していくことを大きなテーマとしていると説明した。
三村氏は、人口減少は日本各地で避けて通れない構造的な課題だからこそ、地域に暮らす住民自身が、これからも希望を持って暮らし続けるために何が必要なのかを主体的に考え、行政との対話を続けながら、地域の将来像や運営のあり方を選び取ることが重要だと指摘。
そして、「人口減少時代における地域づくりというのは、失われていくものを嘆くことではありません」と述べ、地域にある強みや資源を再発見し、そこから新たな価値をつくり出すことこそが地域づくりだと強調した。
そのためには、首長のリーダーシップと住民全体の共同作業に加え、NPOなどとの連携も重要になる。三村氏は、成功事例だけではなく、その過程で経験した試行錯誤や苦労も共有し、そこで得られた知見が自治体やNPOの枠を超えて横展開されることへの期待を示した。
I「草の根の人々が分野を超えてつながることが重要」――鈴木寛氏
東京大学教授の鈴木寛氏は、日本の市町村の多くを占める人口5万人以下の自治体に目を向けた。
全国の市町村のうち約1200が人口5万人以下であり、こうした地域が日本の農業生産や森林を支え、都市部の人々にとっても不可欠な水や食料の基盤となっていると指摘。
一方、そうした地域では人口減少に伴って高校がなくなり、小中学校の閉校や統合も進んでいるとして、「この悪循環をどうやって止めていったらいいのか」が重要な課題であると問題提起。
その解決には、行政や特定の組織だけではなく、「草の根の人々がいろいろな分野を超えてつながっていく」ことが必要だと鈴木氏は強調しつつ、人々が知恵を出し、汗をかき、互いに励まし合うネットワークが重要だとして、「シン・エクセレントNPO」の動きが全国へ広がっていくことへの期待を示した。
I自治体の「住民自治」とNPOの「市民性」は同じ方向を向いている――田中弥生氏
大会のファシリテーターを務めた「エクセレントNPOをめざそう市民会議」共同代表の田中弥生氏は、今回の大会が従来の表彰型の取り組みとは大きく異なることを改めて説明した。
田中氏が重視したのは、当日の発表だけではなく、各団体が自らの課題を発見し、整理するまでのプロセスだった。登壇団体は大会に先立ち、「エクセレント基準」を用いて自らの活動を振り返った。自治体には東京大学公共政策大学院の学生が、NPOには「二枚目の名刺」の社会人ボランティアが伴走し、それぞれの組織が現在取り組んでいる課題と、その先に見えてきた次の課題を掘り下げた。
また、協賛企業などにも評価の考え方を学んでもらい、登壇者だけではなく、会場に集まる側も課題をともに考えられるよう準備を重ねた。
田中氏はさらに、自治体とNPOを同じ大会で取り上げた理由について、両者には重要な共通点があると説明。自治体もNPOも、市民や住民に最も近い場所で活動している。そして、住民を行政サービスや支援の単なる「受け手」にするのではなく、一人ひとりが地域や社会に参加し、その担い手になっていくことを目指している。自治体の言葉で言えば、それは「住民自治」であり、NPOの言葉で言えば「市民性」である。自分たちの社会を誰かに任せるのではなく、自ら参加し、社会をつくる側に回る。その力をどう引き出すのかという点で、自治体とNPOは同じ方向を向いている。
今回の大会は、その二つをつなぎながら、人口減少時代の新しい地域社会の姿を探ろうとするものであるとの認識を示した。
その後、5団体による「課題プレゼン」が始まった。
I人口が減っても、自ら未来を選べる町へ――三宅町(奈良県)
最初に登壇した奈良県三宅町からは、森田浩司町長らが、人口減少の中でも住民が主体となって地域の未来をつくるための取り組みを報告した。
三宅町が掲げるビジョンは、「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」である。町が目指しているのは、行政があらゆるサービスを提供するのではなく、住民自身が自分のやりたいことを選択し、挑戦できる地域だ。役場も住民や地域で挑戦する人々の「夢の伴走者」となり、ともに価値をつくっていく。そのための行動指針として「対話、挑戦、失敗」を掲げている。挑戦を生み出すには、失敗を許容できる地域や行政でなければならないという考えからだ。
その実践の一つが、三宅小学校の建て替えを契機に進めている「未来の学校プロジェクト」だ。森田町長は、教育長が地域に出向いてワークショップを重ね、自治会などを含め約1000人の町民と対話してきたことを紹介した。
さらに発表には、プロジェクトに小学生の頃から関わり、現在は高校生となった小坂井愛未氏も登壇。小坂井氏は、町の交流まちづくりセンター「MiiMo」で教育長から声をかけられたことをきっかけに、教育大綱や未来の学校づくりを考える活動に参加してきた経験を語った。
森田町長が問題提起したのは、こうした対話に積極的に参加する一部の住民だけでなく、これまで地域づくりにそれほど関心を持ってこなかった人々をどう巻き込むかという課題だった。
行政が完成したサービスを住民に提供するだけではなく、構想の段階から住民が参加し、自分たちの町に何が必要なのかをともに考える。人口が減っても、そこに暮らす人々が自ら必要なものをつくり、地域の未来を選択できる町をどうつくるのか。三宅町は、住民自治そのものを強くすることを次の課題として提示した。
I子どもや家庭が、問題が深刻になる前につながれる地域へ――認定NPO法人とりで(山口県岩国市)
児童虐待や家庭の孤立という課題に取り組んでいる認定NPO法人とりでからは、代表理事の金本秀韓氏と、利用者の吉原凱斗氏、上田歩夢氏が登壇した。
金本氏はまず、自身の生い立ちや活動を始めた経緯を振り返りながら、とりでが取り組んできた子どもや家庭への支援について説明。その上で、これまでの活動と成果だけではなく、現場で見えてきた課題、そして今後どのような仕組みをつくっていきたいのかを提示した。
今回の発表では、支援する側だけではなく、実際にとりでと関わってきた吉原氏と上田氏も登壇し、自らの経験を語った。両氏はともに半生を振り返りながら、小学生の頃からとりでの子ども食堂や無料の学習支援の存在を知っていれば「絶対行っていた」と強調。「とりでともう少し早く関わることができていたら」との思いを口にした。
ここから見えてくるのは、困難が深刻になり、本人や家庭からSOSが発せられてから初めて支援につなげるだけでは十分ではないという課題である。子ども食堂や学習支援など、子どもや若者が特別に「支援を受けに行く」と意識しなくても参加できる場所を地域の中につくり、問題が深刻になる前から自然につながることができる。その接点をどう増やし、必要な子どもや家庭に活動そのものをどう知ってもらうのか。
金本氏は、とりでの取り組みそのものを広げるだけではなく、こうした活動と、その背景にある社会課題をより多くの人に知ってもらうことの必要性を訴えた。そして、企業など地域外の主体にも力を借りながら、子どもや家庭を地域全体で支える仕組みをどうつくるのかを、次の課題として提示した。
I難民を「支援される人」だけにしない地域社会へ――認定NPO法人難民支援協会(東京都)
認定NPO法人難民支援協会からは、代表の石川えり氏と利用者のTin Win氏が登壇した。発表では、日本に逃れてきた難民が直面する制度上・生活上の課題を石川氏が説明するとともに、Tin Win氏が当事者の視点から、日本社会で暮らす難民と地域社会との関係について語った。
発表で石川氏が指摘した課題の一つが、難民申請中の人々の生活を支える公的な仕組みである。石川氏によれば、日本に逃れてきても、生活の基盤を確保するための公的支援につながるまでに時間がかかる場合があり、その間に住居を失うほど困窮する人もいる。その隙間を、難民支援協会をはじめとする民間団体がシェルターの提供などによって支えているのが現状だという。
石川氏は、こうした最低限の生活を支える仕組みについて、民間団体による支援を増やすだけではなく、公的な役割そのものを広げていく必要があるとの考えを示した。
一方で、今回の発表は難民を一方的に「支援される人」として捉えることにも問いを投げかけた。Tin Win氏は、難民として日本で暮らす立場から、難民や外国人に対する否定的な言説が広がることの苦しさに触れながら、それでも、難民を理解していない人々にどう働きかけるのかを考える必要があると語った。
そこで示されたのが、難民と地域住民の双方が抱える不安を理解することだった。難民にとっては、ようやくたどり着いた場所で再び安全な居場所を失うかもしれないという恐怖がある。一方で、地域で暮らしてきた住民にも、慣れ親しんだ地域や生活の安全が変わってしまうのではないかという不安がある。両者が置かれている状況は同じではないが、それぞれが何を不安に感じ、相手の言葉をどのように受け止めているのかを理解することが、共生を考える出発点になるとTin Win氏は語った。
さらに発表では、難民と日本人がともに参加する地域での活動も紹介された。その活動には延べ300人近い難民と日本人が参加し、難民の側からも、自分たちが暮らす地域を「故郷」と捉え、その地域が困難に直面したときには自分たちも貢献したいという思いが示されたという。
難民を「助けられる存在」としてだけ見るのではなく、同じ地域で暮らし、その地域を支える一人の住民として捉える。そして、難民と地域住民の双方が互いの不安や背景を理解しながら、ともに地域社会をつくっていく。難民支援協会の発表は、生活や制度面での支援を充実させることと同時に、難民を地域社会の担い手としてどう受け止め、ともに暮らす関係をどう築くのかという課題を提示した。
I「支える人」と「支えられる人」を分けない――一般社団法人えんがお(栃木県大田原市)
子ども、高齢者、障害のある人、認知症の人、虐待などの背景を持つ人など、多様な人々が日常的に交わる地域コミュニティをつくっている一般社団法人えんがおからは、代表理事の濱野将行氏と、日頃からえんがおでともに過ごしている尾引里美氏、田中キクエ氏、井野心美氏が登壇。活動を運営する側だけでなく、実際にその場に集う3人とともに、えんがおの日常と、そこから見えてきた地域社会のあり方を紹介した。
発表で紹介されたのは、年齢や属性、抱えている課題によって人を分けるのではなく、様々な人が「ごちゃ混ぜ」になって過ごす日常だ。高齢者、子ども、障害のある人などが同じ空間に集まり、それぞれが誰かに助けられる一方で、別の場面では誰かを助ける存在になる。そこでは、「支援する人」と「支援される人」という役割が固定されない。実際に発表でも、支援されるだけの立場ではなく、今度は自分が誰かを手伝う側になることの意味が語られた。
活動を続ける中で地域の拠点は11カ所に広がった。大会に参加していた大田原市の副市長からも、えんがおの拠点があることで、「少しでも関わりたい」と考える人がそこに集まってくる場になっているとの発言があった。
人口減少や高齢化によって人間関係が薄くなる中、新たなサービスを増やすだけではなく、人と人との関係そのものを地域の資源としてどうつくり直すのか。えんがおの発表は、孤立に向き合う地域社会のあり方を問いかけた。
また、濱野氏は寄付のあり方について問題提起をした。活動の規模や広がりのようなScale UPを求めるだけでなく、Scale Deepすなわち、数や規模を追求しないが、一人ひとりの人生に深くじっくりと向かい合いあう、孤立・孤独支援のようなタイプの活動があることも理解して欲しいという点だった。
I「普通の自治体」だからこそ、全国に広げられるDXを――武豊町(愛知県)
最後に登壇した愛知県武豊町からは、鳥羽悠史町長と政策推進部の青木清光氏、柴田柊人氏が登壇し、「普通の自治体が挑む再現性のある自治体DX―個人最適化された行政サービスを目指して」をテーマに発表した。
冒頭、鳥羽町長は、武豊町が進めている公民連携のまちづくりについて触れ、企業版ふるさと納税なども活用しながら、行政だけでは解決できない地域課題について企業などと新たなモデルをつくっていきたいとの考えを示した。
続いて青木氏が自治体DXの取り組みを説明。人口約4万3000人の武豊町は、国のモデル事業に採択されたことも、全国的な先進自治体として知られているわけでもない「普通の自治体」だという。しかし、日本の基礎自治体の約7割が人口5万人以下であるからこそ、「普通の自治体」が生み出した仕組みには、全国の多くの自治体へ横展開できる可能性があると語った。
町では、給付金のオンライン申請や高齢者向けスマートフォン教室などを進めている。全世帯向け給付金のオンライン申請では、オンライン申請者の1割以上を60歳以上が占め、その約98%が「便利だった」と回答したことなどを成果として紹介。
一方で、デジタル化を進めるだけでは課題は解決しないとも指摘。町が直面しているのは、どのような住民がデジタル手続きを利用し、どのような住民が依然として窓口を利用しているのかという属性データを十分に把握できていないという問題であるとした。
そこで後半は柴田氏が、今後取り組む三つの方向性を提示。行政サービス利用者の属性データを把握し、デジタル化が必要な部分と対面でのケアが必要な部分を可視化すること。「使えない人」と「使わない人」を区別して、それぞれに合った施策を講じること。そして、住民を行政サービスの単なる「消費者」から、サービスを利用し、評価し、改善に参加する「共創者」へと変えていくことであるとした。
DXを単なる行政の効率化に終わらせず、住民一人ひとりに合わせたサービスと住民との共創につなげられるのか。武豊町は、「普通の自治体」だからこそ全国の多くの自治体にも応用可能な、次の自治体DXの姿を提示した。
I「課題」を開くことで、新しいつながりをつくる
この日、5団体が提示した課題はそれぞれ異なっていた。しかし、約3時間にわたるプレゼンテーションと質疑を通じて共通して見えてきたのは、人口減少時代の地域社会を、行政やNPOなど一部の専門家だけで支えることはできないという現実だった。
三宅町は、住民を行政サービスの受け手から地域の未来をつくる主体へと変えようとしていた。とりでは、子どもや家庭が困難を深める前から地域とつながれる仕組みをつくろうとしていた。難民支援協会は、難民を支援の対象だけではなく、地域をともにつくる住民として捉えようとしていた。えんがおは、「支える側」と「支えられる側」という境界を越えた関係を地域につくり、武豊町は行政サービスの利用者を、その改善に参加する「共創者」に変えようとしていた。
そこに共通しているのは、地域に暮らす人を「受け手」にとどめず、社会をつくる側にしていくことである。それは、田中氏が語った自治体における「住民自治」と、NPOにおける「市民性」が交わる地点でもある。
人口が減少すれば、行政サービスや地域の機能を効率化し、時には縮小することは避けられない。しかし、「賢い縮小」だけでは、地域の未来はつくれない。その先に、地域に暮らす人々や地域外の人々がつながり、自ら新しい地域の姿をつくる「未来へのチャレンジ」が必要になる。
そして今回の大会で特徴的だったのは、完成された答えを持つ団体を集めたのではなく、あえて「まだ解決できていない課題」を社会に開いたことだった。
課題を隠さず共有する。そこに異なる経験や知識を持つ人が加わる。そして、新しい知恵や連携を生み出す。工藤が開会挨拶で示した「自分たち自身が変化をつくらなければならない」という問題意識を、地域の現場で具体的な行動にどう変えていくのか。
第1回「シン・エクセレントNPO大会」は、完成された答えを示す場ではなく、自治体、NPO、企業、大学、そして市民が課題を持ち寄り、人と知恵をつなぎながら、人口減少時代の新しい地域社会のあり方をともに模索していく、その第一歩となった。
