「東京会議2023」では何が議論されたのか

ロシアによるウクライナ侵略から一年。世界10 カ国のシンクタンクの代表者や世界的オピニオンリーダーと共に、世界の平和秩序再建や、民主主義の修復などについて議論を行いました。


 2017年の設立から7回目となる「東京会議」は、世界10カ国のトップシンクタンク代表と世界的オピニオンリーダーを集め、都内の東京プリンスホテルを会場に2023年3月23日から25日の日程で開催されました。


 昨年の「東京会議2022」は、その開催の約3週間前にロシアがウクライナを侵略し、これまでの秩序や国際安全保障環境がかつてないほど緊張する中で行われました。


 それから一年が経過しましたが、いまだ停戦の兆しは見えず、戦争長期化が懸念されている状況で、しかも世界の分断がさらに深刻化し、民主主義国と権威主義国の対立構造がより明確になる中での「東京会議2023」の開催となりました。



3年ぶりの対面開催には、世界10カ国のトップシンクタンクの代表の他
メアリー・ロビンソン元アイルランド大統領等が参加


 3年ぶりの対面での開催となった今年の「東京会議2023」の公開セッションには、ロシアの侵略行為に反対する民主主義国10ヵ国のシンクタンクの代表者が集まったほか、メアリー・ロビンソン元アイルランド大統領をはじめとする世界のオピニオンリーダーが集結。世界が注視する喫緊の国際問題である「ウクライナ戦争から1年―世界の平和秩序の再建は可能か」「民主主義国は、世界の分断と民主主義の修復にどう立ち向かうか」をテーマとして議論を行いました。


 また、非公開セッションでも世界経済や、民主主義、アジアの安全保障など多岐に渡るテーマに多くの専門家が登壇し、活発な議論を展開。こうした議論の成果をまとめ上げた「共同声明」は、本年のG7サミット議長国である日本の岸田文雄内閣総理大臣に手交されました。


 世界的なアジェンダを日本で議論し、日本から発信する唯一のハイレベルな議論の場として定着したこの「東京会議」は、200人を超える方が会場で傍聴し、多数のメディアで報じられるなど今年も日本内外で大きな注目を集めました。



 公開セッションは、基調講演から始まりました。最初に登壇したメアリー・ロビンソン元アイルランド大統領は、気候危機やパンデミック、核の脅威や超大国間の対立などによって人類は存亡の危機に立たされていると指摘。一国だけでは問題解決できない状況である以上、多国間協力によって取り組まなければならないにもかかわらず、現状のリーダーたちには「政治的意思が欠けている」と喝破しました。ロビンソン氏は、気候危機に関しては、後ろ向きな日本の姿勢に苦言を呈しつつ、ロシアのウクライナでの核恫喝や新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止表明によって高まる核リスクに関しては、核兵器の恐ろしさを最も熟知している日本が今年のG7サミット議長国であることをチャンスだとし、強いリーダーシップの発揮に期待を寄せました。

 イギリスのウィリアム・ヘイグ元外務大臣は、安定的にグローバル化が進み、先進民主主義が発展し、大国間の平和が保たれるという「普通の世界」は終わりを迎えたと指摘。来るべき「新しい世界」で民主主義諸国がなすべきこととしてはまず、ウクライナへのサポートを続け、民主主義と国際法を守るべきと主張。また、グローバル・サウス諸国との関係を強化し、民主主義陣営に引き留めることとともに、QUADやAUKUS、CPTPP(包括的・先進的環太平洋経済連携協定)などの枠組みを通じて主要民主主義国間のネットワークを強化することも大事だと語りました。




 インドネシアのイグナシウス・ジョナン元エネルギー・鉱物資源大臣、元運輸大臣は、 インドのGDPがイギリスのそれを上回るなど、世界の経済的な力関係が変化している現状を指摘。こうした中では、先進国だけで物事を決めるのではなく、グローバル・サウス諸国の意思や利益を反映しながら、課題解決に取り組んだり、共通利益を模索すべきと主張。もっともその際、「自由に対する理解がインドネシアと日本では異なる」などと例示しつつ、そうした相違点よりも「共通項を見つける努力が必要」との認識を示しました。同時に、共通課題においては各国が公平な責任を負うべきとしつつ、G7諸国に模範となるようなリーダーシップを求めました。

 「世界の未来に問われる我々の責任」をテーマにしたパネルディスカッションでも、気候危機や核問題をはじめとして様々な課題に対する懸念が各パネリストから相次ぎました。こうした中での対応として、アメリカがそのリーダーシップを取り戻すための後押しを他の民主主義諸国がすべきといった主張や、国連改革や新領域をめぐるルールづくりをはじめとする世界のガバナンス改革についての発言が相次ぎましたが、市民自身の自覚と役割を問う意見も寄せられました。


公開フォーラムでは、ウクライナ問題と民主主義に関して議論を行う


 続く公開セッション1「ウクライナ戦争から1年―世界の平和秩序の再建は可能か」では、ウクライナ戦争は長期化が予想され、西側諸国には“支援疲れ”も見え始めているが、ロシアが欧州の覇権を目指している以上、今は外交交渉の段階ではなく、西側は引き続きウクライナへの軍事支援を継続すべきとの発言が相次ぎました。また、中国の和平案についても評価に値せず、将来的に停戦交渉をするにあたっては、信頼できる第三者が仲介役となるべきであり、グローバル・サウス諸国とりわけインドにその役割を求める論者が多数見られました。停戦に関しては他にも、国連は機能しないとの見方もあった一方で、カンボジアPKOを日中独によって再現すべきといった提言も寄せられました。さらに、ウクライナが勝利した場合であっても、NATO加盟では困難である以上、新たな安全保障の措置を講じる必要があるとの指摘も寄せられました。

 公開セッション2の「民主主義国は、世界の分断と民主主義の修復にどう立ち向かうか」では、今民主主義国家に問われているのは権威主義国家への対抗ではなく、民主主義によって課題を解決したり、より良い生活を実現するなどしてその有用性を示すことだという主張が複数の論者から寄せられました。また、世界規模の課題に対しては、民主主義国家だけでは解決できないため、非民主主義国家とも協調する必要があるとして、いたずらに世界の分断を煽る言説を戒める指摘も寄せられました。また、新たなデジタルテクノロジーをめぐる問題についても、プラス・マイナス両面からの検討がなされるなど、活発な議論が繰り広げられました。


公開フォーラム終了後、共同声明を採択し、2023年のG7議長である岸田文雄・内閣総理大臣に手交し、総理はG7サミットでの決意を語りました


 公開セッション終了後、「日本でのG7首脳会議に向けたメッセージ」(共同声明)が採択されました。その後開かれた歓迎夕食会では、この採択された共同声明が言論NPO代表の工藤泰志から、「東京会議」の生みの親の一人でもある岸田文雄内閣総理大臣に手渡されました。

 日本の総理大臣が戦後初めて戦地に入るという、ウクライナへの歴史的な電撃訪問からの帰国直後にこの「東京会議2023」に駆けつけた岸田総理は、共同声明を受けて挨拶に登壇。自らが議長として5月に広島で開くG7サミッに向けた決意を語りました。そこではまず、ロシアによるウクライナ侵攻を「決して許すことはできない暴挙だ」と非難するとともに、「世界を弱肉強食の時代に戻してはならない」と強調。サミットにおける達成目標として、「第一は法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の決意を力強く示す」という方針を示しました。

 岸田総理はさらに、グローバル・サウスにも言及。「現実問題として様々な特色を持った国のパワーが相対的に増している」との認識を示した上で、「豊かな多様性を尊重するための基本的な原則の順守と分断を招かないための対話が求められる」とし、グローバル・サウスへの関与強化も目標として掲げました。
 

 「東京会議2023」では、こうした公開のセッションに加え、3つの非公開セッションやワーキングディナーも開催しました。世界経済や、民主主義、アジアの安全保障など多岐に渡るテーマに10カ国シンクタンクの代表者に加え、多くの専門家が参加。さらに、西村康稔経済産業大臣、木原誠二内閣官房副長官といった政府要人も登壇し、活発な議論を展開しました。