3月3日午後、都内の東京プリンスホテルで「東京会議2025」の最初のプログラムとなる非公開会議①が行われました。まず、「我々は民主主義の何を守るべきか」をテーマとした議論が行われました。
現在、多くの民主主義国で自国第一主義の政治的な動きが高まり、国内に亀裂が広がり、平等や人権を攻撃する人が存在しています。日本でも政治不信が高まり、有権者の約半数が選挙の投票に行っていません。SNSが内向きで攻撃的な言説を拡大している傾向も見られ、権威主義的、寡頭政治的な傾向を強める国も存在します。

この非公開会議では、民主主義は今、どこに向かおうとしているのか、こうした傾向を作り出している大きな要因は何か、有効な対応策はあるのか。我々は民主主義の何を守るべきか、といった点を踏まえつつ、シンクタンクの役割について話し合いました。司会は、同志社大学政策学部教授で、言論NPOの「日本に強い民主主義をつくる戦略チーム」共同代表でもある吉田徹氏が務めました。
今、民主主義国が直面している課題は何か
冒頭、パネリストから問題提起が行われました。まず、2月23日に投開票が行われたドイツ連邦議会の総選挙について、移民排斥をはじめとして過激な政策を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党に躍進したことには憂慮すべき点が多いという指摘が各氏から相次ぎました。同時に、日本に対しては、AfDの内部には第二次大戦中の日独伊三国同盟にノスタルジーを感じる層もいると解説しつつ、「今後、日本の政治家に対するアプローチも増えてくるだろう」と警告する出席者もいました。

もっとも、各地でこうした右派ポピュリスト政党が躍進している背景としては、グローバル化による恩恵を受けられなかった層の不満だけではなく、直近では新型コロナへの対応の失敗、さらに遡れば2007年以降の世界金融危機に上手く対応できなかったことなど、先進民主主義国が課題や危機に対してアウトプット(成果)を出せなかったという政治の失敗も大きいとの見方が複数の出席者から示されました。
また、メディアの問題についても発言が相次ぎました。世代ごとに情報源とするメディアが異なるようになり、何が真実なのか、世論の中で統一することが困難になっていること、そして若い世代が利用するSNSでの中に過激な言説が蔓延していることについての分析が多く寄せられるとともに、これに対するガバナンスのあり方が課題であることが強調されました。

さらにこうした状況の中で、ミュンヘン安全保障会議に登壇したJ・D・バンス米副大統領が、言論の自由と民主主義が欧州のエリートから攻撃されているとの認識に立ち、「欧州に関して私が最も懸念している脅威はロシアでも中国でもない。それは欧州の内なる脅威だ」と主張したことを踏まえ、これまで民主主義を牽引してきた米国自体を脅威として懸念する声もありました。
ただそれと同時に、EU圏内では各国の国家に対する市民の信頼度が低下する一方で、EUに対する信頼は向上していることをプラスの要素として捉え、これまでのように米国に依存することなく、EUが一丸となって既存の経済秩序を擁護しつつ、リベラルな価値や規範を守っていくことの必要性を説く意見もありました。
その米国国内の社会事情、とりわけDEIと呼ばれる多様性などへの取り組みの見直しが相次いでいることについては、民主党政権の過激なDEI政策に対して従来から世論内に根強い反発があり、トランプ政権の行動もそうした世論動向を反映させたものとの解説がありました。
こうしたことを踏まえて、知識層の責任についても議論が及び、メディア、そしてシンクタンクに積極的な役割を求める声が多数寄せられました。
成果を出すことが求められる民主主義国。責任ある知識層としてシンクタンクの役割も大きなものになる

その後行われたディスカッションでも、出席者各氏からは問題提起で示されたものと同様の指摘が相次ぎました。
もっとも、アウトプットについては、「民主主義国が成果を出せなければ、人々は権威主義体制に引き寄せられる」との観点から、その重要性についての異論は出なかったものの、多くのリーダーが政権維持のために短期的なものアウトプットばかりを重視するようになり、長期的な課題に取り組む誘引が乏しくなってしまうとの指摘もありました。
また、国内世論の細分化・分断化が進む中では、小政党が分立して安定政権ができにくくなり、したがって成果も出しにくくなるとして、その難しさを指摘する声もありました。
ロシアからの選挙干渉についてはこれを危険視する意見は多かったものの、それ以前から欧州極右の中には親プーチンが多かったという問題の難しさも明らかになりました。
セッションでは「民主主義とは何か」という根源的な議論も展開されました。欧州の極右とアジアの途上国で復活しつつある開発独裁への回帰・軍部への信頼増といった現象は、同じ民主主義国内の問題ではあるものの、性質は異なるとの指摘がアジアの出席者から寄せられると、民主主義の多様性を認めつつ、「民主主義を守るという共通認識は必要だ」「多様でもよいが、根幹はリベラルデモクラシーであるべき」といった主張が寄せられました。
こうした状況の中でのシンクタンクの役割としては、長期的な視野を持って国家や世界の将来を考えていくような骨太の議論をつくる論壇が失われ、目の前の現象だけを追うメディアばかりになっている現状を鑑み、シンクタンクが責任ある知識層としての言論のプラットフォームを構築していくべきとの認識で各氏は一致しました。
