東京会議2026 議長声明

 私たちは3月10日からの2日間、「東京会議2026」を開催した。東京での議論にはG7諸国にインド、インドネシア、シンガポール、ブラジル、ベルギーを加えた世界12カ国のシンクタンク代表や欧米、アジアの政治リーダーや現役大臣など40氏が出席した。

 今年「東京会議」は創設されてから10年目となる。この間、冷戦後の国際秩序を支えた前提は大きく揺らぎ、世界は大国間の激しい競争と対立で特徴づけられた多極的な世界へと構造的に変わろうとしている。

 アメリカやロシアなどの大国による力の行使は、もはや例外的事象ではなくなっており、「力こそ正義」の論理が国際社会全体でますます台頭している。ウクライナ戦争、ガザ紛争、そして今や米国とイスラエルによるイランへの大規模な軍事作戦も、その象徴である。

 かつて世界が共有してきたルールや国際協調の基盤は弱体化し、ほとんど機能できない事態に陥っている。

 私たちは会議の直前、世界の36機関のシンクタンクと協力して緊急調査を実施し、専門家が国際秩序と大国関係をどのように見ているかを把握した。浮かび上がったのは、世界の主要な専門家たちが大国主導の力の秩序はもはや「一時的な現象でない」との認識を幅広く共有していたことである。

 「力の時代」の到来は、必ずしも米中が世界を管理するG2への収斂を意味しない。世界はより不安定な多極化に向かっている。そして、ルールの秩序は消滅したのではなく形骸化し、国際秩序を形成する国家の主体的な行動がなければ今後も機能しない、というのが、専門家の共有の理解である。

 この2日間行われた我々の議論は、調査に回答した世界293人の専門家のこうした認識がその前提となった。

 大国が世界での目標を達成するためにますます強制を他国に強いるようになる中で、多国間主義やルールの秩序をいかに守れるのか、どのような努力で、それが可能なのか。これが様々な角度から検討した問題である。討議を通じて確認できたことは、二つある。


 第一は、力の秩序が前提となる時代であっても、法の支配と多国間主義は放棄してはならないということである。大国の行動が大きな影響力を持つ現実を認めつつも、ミドルパワーなどの国に期待される世界秩序を形成する能力を軽視すべきではない。

 第二に、国際秩序は自然に回復するものではなく、秩序を形成する国家の主体的な選択と協調によってのみ形づくられる、ということである。包括的な多国間主義の復元は困難かも知れないが、分野別・地域別の限定協調の可能性は残されている。いかなる困難に直面しようとも、その目標実現に向けた努力は止めてはならない。


 こうした共通認識のもとで、私たちは取りうる次の4つの行動について議論を集中した。


 第一に、国際法と法の支配の原則を再確認し、いかなる地域やいかなる場合においてもその適用を軽視しない、ということである。国連が国際秩序の中心に立つことは今後もかなり難しいが、そこで合意されてきたルールや規範まで放棄してはならない。

 この点で、まず、世界は米国およびイスラエルとイランとの間で起きている戦争を終結させ、この戦争がさらに地域的に拡大することを防ぐために協力して取り組むべきである。自国の意に添わない国家指導者を武力で排除する、という行動は認められるべきではなく、いわゆる「力による平和」も国際法や国際秩序を損なう行為であり、安易に容認すべきではない。

 また、平和を維持する国連外のどんな実効性のある仕組みも、その正当性は問い続けるべきである。

 第二に、多国間主義に基づく包括的な国際協調の回復は仮にそれが困難であっても、引き続き取り組まなくてはならない。

 我々が注目するのは、EUをはじめ、日本、カナダ、オーストラリア、ブラジル、韓国などのミドルパワー国の役割である。大国の力の行動が前面に出る世界で、ミドルパワー国が全体的な流れを変えることは難しいが、彼らが連携すれば、特定の分野や地域を安定させることができる。

 この点でEUやミドルパワーの国は、地域的な経済統合や危機管理、脱炭素化、パンデミック対応など分野別・地域別の協調を可能とするための枠組みを構築するため、市民社会や国際企業とも連携するべきである。

 第三に、今年の東京会議では「アジア円卓会議」が立ち上がり、アジア各国の政治指導者が一堂に会した。アジアの国々が世界の変化に沈黙するのではなく、主体的に考え、対話を続けることを、我々は全面的に支援しなくてはならない。

 第一回目の会合となった今回の「アジア円卓会議」ではアジア各地からの出席者が、力が秩序を決める世界への懸念を表明した。世界の成長と安定に深く関わるアジアが、率直に語り合い、世界やミドルパワーの国と連携することは、アジアや国際社会の今後にとっても極めて重要な作業である。

 第四は、知識層の役割である。力の政治が前面に出る世界において、現状を解説し、あるべき世界を論ずる、ことだけが知識層の役割ではない。

 協力が可能な機会を見つけ出し、協調をどのように促進するのか、現実を踏まえた実践的で具体的な措置を提言する責任こそ、問われているのである。


 創設から10年を迎えた「東京会議」は、未来に向かう分岐点にある。世界は、多極化した不安定な力の秩序に向かっているが、主体的な行動がなければ、ルールの秩序を再建することはできない。

 世界の未来は、偶然に委ねられるものではなく、主体的な責任と行動によってのみ描かれる。私たちは、その役割をこの東京発の本気の議論で担い続ける。

 本日こそが、未来への出発点なのである。

2026年 3月11日  東京会議