【代表・工藤が語る】福田康夫・元総理からの叱咤激励

日中対話を再開できるのは「君たちしかいない」

福田元総理のご遺志を受け継ぎ、11月、中国との対話を再開します

言論NPO代表・工藤泰志

「厳しい局面だからこそ、対話を止めてはいけない」――福田元総理からの叱咤激励


昨年11月、日中関係が急速に冷え込む中、20年以上にわたり一度も中断したことがなかった「東京―北京フォーラム」は、初めて延期を余儀なくされました。
私が武藤敏郎実行委員長(大和総研名誉理事)とともに、最高顧問の福田康夫元総理の事務所を訪ねたのは、フォーラムの延期を報告するためです。
福田さんは退院したばかりでしたが、普段と変わらず、我々を出迎えてくれました。
そして、話を聞いた後に、こう言ったのです。
「厳しい局面だからこそ、対話を止めてはいけない」と。
久しぶりにお会いする福田さんは、一回り体が小さくなったように見えました。でも、口調は昔よりも厳しく感じました。
「私も動かなくてはならないが、(この体調では)そうもいかない。でも、君らは違う。本気で行動をすべき。対話を再開できるのは、君たちしかいない」
その時の真剣なまなざしを忘れたことはありません。
その気迫を感じたのは、武藤さんも同じです。そして、私たちはその時、覚悟を固めたのです。
どんな事情があっても、対話は止めるわけにはいかない、と。
私たちの対話は、中国との友好を意識したものではありません。
この一年、世界は大国の力の行動が広がり、ルールの基づく国際秩序は揺らいでいます。
どんなに体制や考えが違っても、お互いの考えをぶつける、そんな話しができるチャネルを失ったら、この巨大な隣国と私たちはどう付き合うのか。
むしろ世界の平和や協力のために、議論できる場を作りたい。
それがこの20数年、中国との対話を続けた最大の理由なのです。
その修復はそう簡単ではありませんでした。
 

中国側との協議を経て、11月に3つの対話実施で合意


福田さんの言葉に背中を押され、私たちは中国側との交渉を開始しました。
何度もオンラインで議論を重ねました。多くの中国人は慎重でしたが、今年7月、北京を訪問し、フォーラムの延期後、初めて中国側主催者と対面で協議を行いました。
私たちの会合には多くの中国の関係者が参加します。でも、会合に参加すること自体を断わる人もいます。
しかし、その協議を通じて20年以上にわたり積み重ねてきた我々の対話が、日中関係のみならず、アジアと世界の未来についても率直に議論できる重要な場であることを改めて知りました。
そして、私たちは、対話の再開に向けて準備を進めることを合意したのです。

3つの対話を「東京―北京フォーラム」の本格再開への「地ならし」に


ただ、「東京-北京フォーラム」そのものの再開を我々は確約したのではありません。
残念ながら、日本から50人規模のパネリスト団が訪中し、中国を代表する識者たちと公開で議論を交わす大規模なフォーラムを開催できる状況には、いまだ日中は至っていません。
でも、対話は諦めない。
その話し合いの中で、私たちはもう一つの合意を作り出したのです。
まずはテーマ別の対話を動かし、それを成功させることで、「東京-北京フォーラム」の本格的な再開に向けた「地ならし」とする。
そうした環境づくりが、フォーラムの早期再開に繋がると、日中双方は考えたのです。
その日から、中国の様々なルートでの協議が始まりました。
そして、ようやく今固まったのが、「安全保障」「経済安全保障と中国との経済協力」「分断と対立が深まる中での世界秩序」の3つのテーマについて
日中の専門家が話し合うことです。この3つの対話はいずれもこの11月に実施することで合意し、現在、その開催に向けた調整を進めています。

福田元総理のご遺志を受け継ぎ、「東京―北京フォーラム」の再開へ


福田さんには、「東京-北京フォーラム」において13度にわたり基調講演を行っていただき、2015年からは10年以上にわたって最高顧問としてフォーラムの活動を支えていただき ました。
日中関係が厳しい局面にあっても、対話を絶やしてはならないという信念を一貫して示し、私たちを励まし続けてくださいました。
最期まで日中関係の行方を案じ、「東京―北京フォーラム」の再開を強く望んでおられた福田さんに、対話再開の目途が立ったことを直接ご報告できなかったことが、私は無念でなりません。
11月から始まる3つの対話を必ず成功させ、その成果を「東京-北京フォーラム」の本格的な再開へとつなげていく。それこそが、福田さんから託された思いに応え、そのご遺志を受け継ぐことであり、私たちにできる何よりの手向けだと考えています。