日本は中国とこれからどう付き合うか―自民党の政治家に立ち位置を問う
工藤:今日は元外務副大臣だった自民党衆議院議員の山口壯さんと、自民党外交部会長の中山泰秀さん、そして財務副大臣だった自民党の古川禎久さんに事務所に来ていただきました。この三人の方と、今の世界の大きな変化を前提としながら、日本の今後の外交のあり方、特に中国とどう日本は付き合うべきか、ということを議論します。
まず初めに、皆さんは今の世界の動きをどう見ているのか、そこを話していただきたいと思います。山口さん、どうでしょう。
パックスアメリカーナ(米国支配による平和)が終わりつつある、ということ
山口:世界は今、パックスアメリカーナ(米国支配による平和)が終わった、あるいは終わりつつあるということだと思います。戦後、米国が主導して、国際連合を作ったり、あるいは自由貿易のWTOにたどり着いたり、あるいはドルを基軸通貨にしていたのが、全部うまくいってないわけです。米国が中心となって、平和と繁栄の秩序を作って来たけれど、それがほぼ成り立たなくなりつつあるのではないか。
さらに米国は、チャイナ・カードということで中国を育ててきましたが、それが却って逆に、覇権戦争にまでなってしまった。パックスアメリカーナが終焉しつつある、もしくは終焉した、というのが現状だと思います。
中山:私は、ロシア・中国連合VS米・英連合、こういう大国同士の2対2の対立軸があって、そこへ時代とともに進化した技術力、これが伝統的な意義とは異なる新たな戦闘領域を作っていて、これに対しての競い合いが始まっている、と考えています。伝統的な戦闘領域というのは、陸・海・空という3領域。それに加えて、今度は宇宙・サイバー・電磁波領域という、3つの領域が重なってきた。これが、この2対2を軸にした争いを複雑化させている、ということだと思います。
今起こっているのは、グローバル資本主義や西洋近代の行き詰まり
古川:私は、今は西洋近代が行き詰まりを迎えていると思います。グローバル資本主義の限界、あるいは格差と貧困、あるいは地球環境問題ですね。これらの根っこは、実は一つのものなのではないか。それは、いわゆる西洋近代の行き詰まりなのではないかと思っています。ですから、この場面を突破するためには、文明史的に彫刻しなければならない、と思っています。ただ現状は、この混乱の中で、例えばポピュリズムが台頭し、世界が協調して地球的課題に立ち向かわなければいけないのに、その連携が整わない。むしろ、それが混乱に向かっている。それを私は心配しています。
工藤:三人の先生方からは、かなり本質的な論点が提起されています。その一つ一つに、私は関心があるのですが、その問題意識を持っているということを前提に議論を進めさせてもらいます。今のお話に一言言わせてもらうと、国際協調というのは我々の求める姿であり、これは完結した仕組みとして揃っているわけではなくて、努力のプロセスだと思っています。だから、そのプロセスを諦めることは、日本の国益上良くない、というのが私の考えです。
では、次にお聞きしたいのが、米国と中国の対立の問題です。特に米国は中国を「戦略的競争関係」と捉える議論があったのですが、今やそれはもうボトム、下の方になっていて、安全保障関係者から見ると、中国に対して「敵国」みたいな非常に厳しい見方が出てきています。ポンペオ国務長官は、米国は連携して中国と戦わざるを得ないというような話までして、米国における関与政策の失敗、が米国の支配的な論調になっています。
政治家の皆さんは、このポンペオ氏の発言をどう見ているのでしょうか。
今は、資本主義VS赤い資本主義であり、民主主義と全体主義の戦い
山口:相当なところまで来ているとは思います。というのは、歴史的に見て、米国の癖があるのですが、例えばロシアが出て来た時は日露戦争後のポーツマス講和会議で関与している。日本が出て来た時には、日本は直接対決で米国とやらざるを得なかった。ソ連が出て来た時は、チャイナ・カードで決着をつけた。今度は中国が出てきて、米中対決です。そういう意味では、技術で争っているという次元を超えていると思うのです。私も古川さんがおっしゃったような西洋近代の行き詰まりというのをすごく感じます。
トゥインビーが昔、言ったと言われているのが、いずれ世界の中心は西洋から東洋に移るだろう、大西洋から太平洋に移るだろうということです。今そこに来ている。トゥインビーが言ったのは、西洋の覇道から東洋の王道に世界の重心は移るのだろう、と多分、願いを込めて言ったと思うのですが、そこを米国は今、覇道で中国と付き合っている。あるいは、中国も王道ではなくて、覇道でやっている。そういう意味で中国は資本主義にはなっているのです、赤い資本主義です。昔、冷戦は資本主義と共産主義の戦いだったけれども、今や米中は資本主義対赤い資本主義。そうなってくると、何が違いなのか。それは民主主義と全体主義でしょう。
共産主義が成り立たないというのは、本当は米中の国交樹立の1979年で片付いているはずなのですが、民主主義の方でも色々と民主主義の弱体化とか言われる中で、中山さんが言われた米英対中露、こういうシーパワー対ランドパワーみたいな構図が出てきているかもしれない。だけど米国の癖として、私は大きくなる新興国を叩くという意味で、米中対立というのが出てきていると思うのです。米国は本気だと思います。だから共産党を例え中国が止めても、覇権戦争が続くかもしれない、と、我々は認識を相当厳しく持った方が良いのではないか、と思います。
工藤:ポンペオ氏もそうですが、米国には関与政策は失敗であり、中国は何も変わらなかったという議論があります。今の山口さんのお話は関与政策の結果、中国経済を世界に統合したし、中国を変えたのは事実だが、その代わり、中国があまりにも大きな力を持つようになり、体質が違う形で米国とぶつかり始めた、そこで対立が始まった、ということですか。
関与政策がこの時点で失敗したと決めつけるのは、時期が早いのでは
山口:米国は戦後、民主化支援に力を入れてきました。マッカーサーが日本に来た時に、自分は米国のシーザーだと言った。シーザーがローマの文明を得たのと同様に、米国はその民主主義を日本に植え付け、これは大成功しているわけです。民主主義の国同士は戦争をしないということに、彼らはすごく強い確信を持っています。だから本当は中国を民主化したい。中国を経済発展させれば、そうなるだろうというのが関与政策だったけれども、今のところ、そうなっていない。そこが一つのポイントです。
だけど別の話もあるのです。共産党80年説というのが最近、耳に入っています。確かにソ連の場合には1912年から1991年まで、80年で終わっている。中華人民共和国が出来たのが1949年だとしたら2029年。ひょっとしたら中国は内政的にキツイ状態にあるのかもしれない。だから民主化政策、あるいは関与政策というのは、まだこの時点で失敗したと決めつけるのは、本当は早いかもしれないという気がしています。
中国は世界への説明の責任は果たすべき、それが信頼の大前提
中山:私は、今日、私たちがこの言論NPOの議論の日取りというのがすごいなと思っています。今日は75年前に、広島に原爆が米国によって投下された日です。(会議は8月6日に実施)、私は、二度と人に対して核を使用しないという国際約束を、改めて作ってもらうということを世界中の首脳たちに訴えたいと思います。このことに反対する人は、誰もいない。しかし75年経っても、核はなくならないどころか、下手をすれば、もっと殺傷力の強い武器や武力というものが使われる可能性が高まっているのが21世紀の初頭だと思っています。
こんな話をなぜ、冒頭に申し上げるかといったら、今日が原爆投下の日ということを忘れてはいけないというだけではなくて、中国自体が、世界にクリアに説明をしないといけないことを忘れて、中国の議論をしてはならないと思っているからです。今回の新型コロナウィルス、中国の武漢からあっという間に世界中に広まった。これがなぜ、どうやって広がっていったのか、伝播したのかということを、きちんと世界に説明する責任は少なくとも中国とWHOにはあると思っています。このウィルスの伝播に対する説明が、前段私が申し上げた核を二度と使用しないという、やがて世界が結ぶだろう条約の信頼の前提になる。
山口さんから、米国は「本気だ」という言葉がありましたが、私も米国は本気だと思います。やはり中国は真摯に米国と向き合うべきです。王毅さんも話し合いのテーブルは空いている、話し合いはいつでもやる、と言っていますから、とにかく中国側に、先ほど申し上げたような説明をしていただく、そして、信頼醸成をもう一度、再確認してもらいたい、そういう風に私は思います。
国際協調に背を向ける米国が、結束を呼び掛けることの説得力のなさ
古川:お二人とも「アメリカは本気だ」と言われますが、まあ本気なのでしょう。ただ、トランプ政権は最初に貿易戦争だと言ったのです。そして、その後、ハイテク・安全保障だとなり、今回はイデオロギーだと言うわけです。だけど、イデオロギー対立というよりは国益と国益がぶつかり合う、覇権争いが本質であり、それが、非常にヒートアップしている、という風に私には見えます。
それで、トランプ政権はパリ協定とイランの核合意から離脱し、今度はWHOからも離脱するぞと言っている。国際協調には背を向けて、逆の方向に行こうとしている米国がここに来て急に、民主主義国家に対して結束しようと呼びかけるということの説得力の無さ、というのを僕は正直感じます。つまり、この一連の動きというのは、本気なのだけれども、焦りに突き動かされた本気。ポンペオ国務長官の発言も、結局は米国の議会のみならず、共和党内においても、更に政権内においても統一した見解とはされていないわけです。世界各国でもそれを支持するところは20ヵ国あるのですか、国際世論がどこまでそれを真に受けて、賛同するかというと、非常に僕は懐疑的です。ですから、一連の動きは却って米国の指導力の低下を印象付ける、そういうもののように思えます。
山口:私の感覚も古川さんに近いものです。どういう風に中国と付き合っていくか。昔、吉田茂さんとダレスが1952年くらいに対話した時に、ダレスはこう言ったのですよ。「吉田さん、北京はもう共産党になったのだから、台北とやってください」と。それに対して吉田茂が言ったのは「あんた若いね」と。吉田茂が70歳。ダレスが50歳。「僕は外交官で、中国で勤務したことがあるから分かっているけど、中国は赤くなっても黒くなっても、中国は中国だよ」と。
結局、「米中橋渡しを俺が手伝ってやろう」と言っていたのを、ダレスが強硬に、「そういうことを言うのだったら、俺はサンフランシスコ講和条約を上院で批准している運動をやっているけど、手を引くからな。日本はもう一度占領国に戻るといいよ」と。そこまで言われればしょうがない、と台北にくっついたわけです。
だけど20年後にキッシンジャーが周恩来に、ニクソンが毛沢東と話し、中国を認めてしまうのです。そういう意味で米国は、時にこういうことを言うのですが、どっちが正しいのかという議論とはまた別の議論で、日本は米国に同調し過ぎかねない。どっちかと言うと全面的に同調するのではなくて、かなり冷静に見た方が良いのだろうなと思います。
工藤:私も、日本は米国の動きに関して冷静に考えるべきだと思っています。ただ、このところの中国の動きは冷静に考えても、攻勢的、強権的に動いているように見えてしまう。そこのところを、皆さん、どう見ていますか。
中国が軍事脅威を段々と高めているということも平等に見るべき
中山:私は、少なくともファイブ・アイズの国々でインテリジェンスに関わっていらっしゃる方々は、ポンぺオ国務長官の演説に100%賛同されると思います。やはりインテリジェンスの現実を見ているから、ということもありますし、広告という戦略マーケティングという点から見たら、色々な意味で米国の内政に対して影響が及んでいるというプロパガンダを、我々はそれこそバイアスを外して、もしくはバイアスをかけて、逆にスクリーニングしていかなければいけないのではないかと思います。
具体的に中国がやっている行為にどういうものがあるのかといえば、南シナ海の海に人工島をあれだけ作って、現実的に軍事基地化させ、3,000メートルを超える滑走路を有する場所を少なくとも三か所作って、空母は3隻も持っている。1991年には原子力潜水艦を含めた最新鋭の潜水艦を保有していなかったのに、今やもう52隻以上保有している。また、今までだったらジン級の潜水艦にJL2ミサイル(射程8000kmのミサイル)を積んでいたのを、なんと今年JL3ミサイル(射程1万2000から1万4000kmの長射程距離ミサイル)を配備している。
もう米国は、南シナ海から米国がSLBMで狙われたら、ホワイトハウスは射程に入っているという現実がある。米中は決してこうした状況に向き合っていないわけではない。ハワイで会談をしていると先ほども言いました。要するに、向き合っているけれども、抑えようもないぐらいの軍事力を中国は特に海軍を中心に強化させているという事実がある。地政学的に日本は、中国の側から離れられませんから、当然米中がせめぎ合う時は、我々はその渦の中に、場所として逃げられないまま、いなくてはいけないという安全保障上のリスクというのは常に伴ってくるわけです。
そう考えていくと、米国の言っていることはきっと興奮しているのだろう、だから冷静に見なければいけない。だけど、冷静に見るのであれば、インテリジェンスの部分での情報で、中国が潜在的な軍事的脅威のプレゼンスを段々と高めているということも同時に平等に見なければいけない。日本は、いわゆる民主主義国家の最前線の国としてこの位置に所在していることを考えると、やはり日本も大国としての責任というものを、今現在は憲法の範囲内ですが、しっかりと米国と連携をして、そういった中国とか、北朝鮮とか、ロシアとか、最低でもこの三正面に対する備えというのは、きちっと持っていなければいけないのではないか。
その中にインターネットレイヤーが出てきて、5Gのテクノロジーでは少なくても米国と日本は同調して、ファーウェイとかZTEの排除に2018年の申し合わせでもう入っていっているわけで、そういった全てのレイヤーで、米英連合対中露連合が対峙している中で、日本がどちらに同調するかというのは、明々白々の事実だと思います。
工藤:中国の動きは、世界的な大きな秩序とか米国の覇権に対して、攻めの動きをしていると考えているのですか。
中山:気づかないうちに攻めているのではないでしょうか。ビジョンがあるかどうかは、習近平さんに聞いてみないと分かりませんが、結果として、そうなっています。ただ、ビジネスの世界ではニンジンをぶら下げながら、軍事を進めている。もしくは、軍事を背景に、いわゆる経済というニンジンを吊っているのかもしれない。
工藤:結果としてそういう現実を作っている、と見えるのは事実です。古川さんの考えはどうでしょうか。
中国の「焦り」は、強迫観念に陥っているからではないか
古川:米国が焦りを感じているように、中国もまた焦りを感じていて、意識的か無意識的かは分からないが、こういう覇権主義・膨張主義にのめり込んでいっているように見えます。冷静に見れば、コロナで世界が大変な時に乗じて外に出ていくということは、中国に対して反発を招くことは必然で、中国にプラスに作用するとは思えないのだけれど、それを冷静に考えることが出来ない状況にあるのでしょう。
例えば内政の矛盾の捌け口として、という意見もあるようですが、僕はむしろ、中国の防御本能のようなものを感じる。かつて清は白人の帝国主義によっていいようにされたわけです。その後、中国はいわゆる「中国の夢」ということで、中国でなければ分からない想いというのがあるのかもしれません。そういうものが強迫観念となって、何とかここで勢力を拡大しないといけないのだという、強迫観念の中に陥っているのではないかなと、そういう風に感じています。
工藤:中国が近代化を進めることで、社会と政治にジレンマが広がる。それを乗り越えるためにも、ある程度強権的な政治体制を組まないとこの矛盾を抑えられないという、構造的な問題が中国に存在します。ただ、一方で中国は、尖閣周辺の日本の領海などにも中国の船は頻繁に出てきますが、日本との関係は自制的で対話というものをある程度考えているように見えます。ここはどう考えていますか。
コミュニケーションギャップを埋めるためにも対話が必要な局面
山口:戴秉国さんと昔、交渉した時に、新しい大国関係を目指しているのだと言われた。これが今の中国の動きではないかと思うのです。新しい大国関係ということは、世界一位になろうとしているわけではないのです。今までは米国が大きくて、中国は小さかった。しかし、中国が世界2位のGDPにまでなって、新しい大国関係、これは安全保障を含めて、彼らはどういう風にこれから大国関係を築こうとしているのか。今までの西洋中心の国際法ではない。それがまだ固まっているとは思えないが、これは相当議論していかないと、彼らが何を考えているかというのは、我々の分かっていないと思うのです。
それだからこそ、対話とかコミュニケーションとかが大事になっている。昔、日本と米国はなぜ戦争がしたのかという時に、1930年代の米国議会では日本には確固たる立場をとれば、日本は引き下がるだろう、stand firm and japan fill back upとの考えがあった。米国はそれで、日本に強い立場に出て石油を止め、日本の米国資産を凍結したが、結局、日本は真珠湾攻撃に引きずり込まれてしまったというのが、歴史の皮肉なわけです。
米国と日本の間には、コミュニケーションギャップ、日本に対する理解が非常に少なかった。それで「菊と刀」という本まで出るわけです。今、日本と中国、あるいは米国と中国は相当対話が欠けているはずなのです。だから、中国は何を考えているのかというのは、私も今自分の持っているエビデンスを基に想像でものを言っているだけで、本当に中国は何を考えているのか。そこをもっと対話を重ねて議論しないと、本当は分からないと思うのです。
ちなみに、資本主義が抱えている矛盾、たとえば気候温暖化とか、今回のコロナも強権的な中国のような国の方がうまく対応が出来るのかもしれない。だけど我々自身からしたら、中国は民主主義の国ではない。そうしたら、そこでどういう風に付き合っていくのか、これは対話やコミュニケーションの問題だと思う。すぐ戦争にまで話を持っていくのではなく、外交官が仕事をしなくてはならない。そのためにも相手の考え方をよく理解した上で、誤解がないようにして、そうして戦争を防いでいく。
その中で出来れば日本の戦略としては、相手が民主主義的な考えを理解するように色々な支援をする。それは米国の出来ないことで、日本の出来ることは、そういうところになってくるのではないのかなと思うのです。
工藤:日本と中国は基本的に違いがある中で、共有する利益や課題がある。その中で中国とどう付き合うのかという話があるわけです。ただ、世界が分裂することは避けるべきです。日本の国益を考えれば、世界の発展を支えた国際協調やルールを軸とした自由な秩序は守らないとならない。中国とはそこでは利益が重ねるはずです。世界が厳しい時だからこそ、こうした対話やコミュニケーションが必要だと思いますが。
対話の前提は約束を守ること、そうでなければ中国は世界の信頼を失う
中山:まず初めに、頭に置いておかないといけない言葉は「軍事なき政治は楽器を抜いた音楽」だということ、だと私は思っています。米国も中国もこの常識に従って動いていて、覇権をまさに取り合おうとしている。日本は軍事という面では米国とは盾と矛の関係にあると、皆さんは思っている。だけど自国でしっかりと守りがなければ、まさに国民の生命と財産を守れないという現実があるのです。
私も、対話は必要だとは思います。が、私が中国に一言、言いたいのは、話し合いをするためにその大前提となるのは、やはり約束を守ってもらうこと。2047年までは、英中共同宣言で、ちゃんと香港を含めた一国二制度をやりますよと言っていたのに、その約束を破って、2020年の香港はああいう状態になっている。本当だったらあと27年間、一国二制度だったのではないですか、なぜ、そういうことをするのか。これは国際条約です。そういうことをきちっと守らないということで、中国は世界の信頼を失っている。そのための努力が足りないのではないか、ということです。
信頼のための努力がなされないなかで、自分の行動は正しいと言われても、また世界に軍事力を展開されても、どうやって中国の行動を理解できるのか、ということです。そういうことを、一つずつ修正していってもらえなくては、コミュニケーションのギャップは埋まらない。
あくまでも米中の覇権争い、日本は外交の基軸を持ち向かい合うべき
古川:今の米中対立をどう捉えるか、ということだと思います。これはあくまで米国と中国の覇権争いであって、そもそも日本が入り込む余地はない、と思います。これを「米中新冷戦」という風に捉えてしまうと、じゃあどっちの陣営につくのだということになって、結局は出口がないのです。大事なことは、日本は主権国家であり、主権国家が生きていくために、どこかの国とくっついていけば安泰だ、ということなんかないわけです。当然ながら、自主路線という道をのたうち回りながらでも、苦しみながらでも、行くしかないと思っています。
その自主路線をやるにあたって大事なのは、日本の外交の基軸といいますか、日本は、世界はこうあってほしいと思うし、日本はこうありたいと思う、という確固たるものがなければいけない。私はこれに関して、やはり歴史から生まれてくるものだと思っています。つまり、近代外交の150年の間に日本は軍事力を持って、まさに覇道でついに滅びた戦前の歴史と、それから王道で繁栄を実現した戦後の歴史があるわけです。
わずか150年の間に、正反対の二つの経験をした日本だからこそ、確信をもって言えることがあるはずです。それは何か。覇権主義は結果的に旨くないぞ、ということ、安定と平和こそが繁栄の基礎であって、国益なのだ、ということです。これを、身をもって学んだわけだから、そこを日本の背骨にして、難しい時代だけれども、生きていかなければならない。そういう心構えで、中国と相対していくべきだと思っています。
吉田路線を越える日本の外交の基軸をどう作っていくのか
山口:実は今に至っても、吉田路線で来ているのです。米国に安全保障をかなりの部分、託して、日本は経済中心でやっていく、現実には今もそうですよ。ところがトランプ大統領は、アメリカファーストと言いだしたし、パックスアメリカーナが終わりつつある。吉田路線というのは越えなければいけない時代に来ていると思うのです。その意味では、古川さんが言われた日本外交の基軸というのは、もう一回戦略的に考えなければいけない時代に来ていると思います。
日本の平和戦略ということで言えば、私は、各国を繋いでいくというのは一つ大きな話としてあるはず、だと思っているのです。例えば、アジア太平洋の場合、TPPは米国が抜けたけど、とりあえず11か国で始めた。RCEPも、インドは抜けたけどとりあえずある。繋がっていないのは、環日本海経済連携みたいな北東アジアの連携です。ここで日本は、ロシア、韓国、中国、モンゴル、米国にも声をかけて、いずれは北朝鮮にも声をかけながら作って、それでこれをTPPとかASEANやRCEPと繋いでいく、という話を考えるべきなのです。これで一つの平和の仕組みを作っていくというのが、これからの外交の中心に置きたいし、個人的にはそれが王道のあり方だろうなと思っています。
その話の中で、民主主義化したい一番の所は中国と北朝鮮ですが、中国は赤い資本主義で、資本主義は本来共産党と相いれないものがある。いずれどこかで清算しなくてはいけないわけです。中国の発展の中で色々な矛盾が出てきているのは、そのためです。例えば中国数千年の歴史を見れば、人民の反抗によって天誅が下り、革命が起きている。それを一番知っているのは習近平だと思うのです。
香港の例では、中国が強引に動きたのは、民主化の動きにぞっとしたからです。本当は2047年まで高度な自治を守ろうとは思っていたけど、今、ああいう風に力を入れないとどうしようもない。そういうことを考えると、日本として、中国の体制がこのままの形でずっと続くと思い込む必要も実はないのではないか。赤い資本主義で、共産党80年説で、あるいは共産党への反感というものは中国国内の中にあるわけです。そこら辺のことをどう活かしていくか、それが、日本のこれからの戦略になると思うのです。
孫氏は「上兵は謀を伐つ、其の次は交を伐つ、其の次は兵を伐つ、其の下は城を攻む」と言っています。要するに軍事で城を攻めるというのは下の下だというのが、孫氏の兵法で、私的には交わりを伐つ、あるいは謀を伐つ、そういうところで日本が果たす役割というのは大きくて、多分、米国にはそれが出来ない。だからそこは、日本が米国の波動に飲み込まれることなく、繋いでいく、そして平和を作っていく。これを我々が、あるいは新しい世代が新しく吉田路線を越える戦略、日本の外交の基軸というものを作っていかなくてはいけないと思います。
工藤:私は、これまで多くの方と議論して、米中の対立の行方は、競争的な共存しかない、と思うようになりました。これは米国の論壇でも出ている考えです。私たちが譲れないのは、ルールに基づく自由であり、多国間の協力であり、基本的な人権です。そこでは一切譲るべきではないと思います。しかし、そのゴールは世界の共存を目指す、ことははっきりさせないとならない。ただ、それから見ると、日本の立ち位置もまだまだ中途半端に見えます。中山さん、どうでしょう。
究極の政治は恐怖と暴力、他国に強いるとすれば黙っていられない
中山:その通りだと思います。工藤さんが言われたルールとか人権、特にルールというのも、実は今やこれが戦争の一つの形なのだと思います。色んな種類の戦争があり、名前は戦争でも、形を変えた対立が進んでいる。
ただ、そういうルール作りをするための場所はどこなのか、ということです。その場所自体をどう考えるのか、ということだと思います。WTOだとか、色んな国際機関もそうで、その極みが国連だとするのであれば、この国連における民主主義の在り方が、これからは一つの課題になるのではないか、と私は考えています。
国連における民主主義はどの国も一票を持っていて構成されます。これは非常に平等で良いことだと思いますが、経済的に弱い国に対し、中国は例えばODAをかざして、お金を返せないなら、あなたの国の港をください、とかなる。また投票の時になったら、中国に一票入れてくれ、そういう形で民主主義を逆に利用して、そういった場所におけるルール作りの形成、もしくは何かの行動を国連のようなところで起こそうと、することになる。
共産党一党独裁の国が、民主主義というシステムを活用すると、そういう応用もできる。そういうことも考えていかなくてはならない。
工藤:国連における主権国の制限というか、一国一票を見直した方がいい、という国連改革を視野に入れた話ですか。
中山:そこまでは言っていません。が、そのような影響を受けないような投票の立場の国を増やしていかなくてはならない。つまり、工藤さんの言われる競争の意味は、かなりに戦いだと思うのです。
私は、究極の政治というのは恐怖と暴力なのだと思っています。そこで今、まさに中国が内政でやっていることなのだと思いますが、これを自国内でやるならまだしも、自国の国境を越えて他国に強いるとすれば、他国は黙っちゃいないよ、と色んなところで摩擦係数が高まっている。そこが一つの米中の争いになっていると思うのです。
ただ、国連の場がいらないということも言っているのではありません。私は世界で唯一の被爆地である広島・長崎、こういったところにアジア太平洋における国連の本部ぐらい将来持ってきて、日本でしっかり集まって議論する、そういうことを世界に提起できるぐらいの大きな構想が必要だと思っています。
古川さんが言われたような、もし日本が独自路線を歩むというのであれば、国際協調のお座敷になれるような場所というものを提案して、リーダーシップを発揮出来たら、それはそれで一番良いのではないのかなと思っています。
これからの日本の役割は、北東アジアに国を繋ぐ新しい枠組みを
古川:戦後の日本の歩みそのものが、非軍事あるいは平和国家というものを標榜して、法律、規則、あるいは国際協調、交交渉というものをやってきたし、それで正しかったと思います。まさにそれは工藤さんが言われたルールベースであったり、協調であったりということですから、日本こそがそれをやってきたと思います。
これからも、例えば東アジアの安定のために、紛争を回避するための多国間の協議の場というものを、日本が主導して粘り強く働きかけて、作っていこうじゃないか、と私自身は思っています。
工藤:今のお話はまさに言論NPOが今年、トラック2で進めている話でして、北東アジアの紛争回避や持続的な平和のために米中が参加する会議が始まっています。
こうした場を、政府間の舞台にいつかは発展させることができたらと、思っていますので、今のお話はとても興味があります。
山口:私も、北東アジアの新しい枠組み作りというのは大事だと考えています。政府間ではこうした問題は今まで全く議論されていない。それを私が外務副大臣の時にいかんなと思って、青山の国連大学でエネルギーと金融について北東アジア連携フォーラムを開き、政府間のトラック1.5くらいで集まったのです。ロシア、日本、韓国、中国、モンゴル、それから米国。
この場で北東アジア開発銀行を作るぞと提案して、ロシアはその時にすごく乗り気だったが、ちなみにこの話は途中で終わってしまって、その後に中国のAIIBが出て来たから、ロシアは喜んでそっちに行ってしまった。だから日本が枠組み作りで色々な仕掛けを作っていき、そのことによって各国を繋いでいく。そういうリーダーシップがこれからの日本の立ち位置として大きいと思うのです。
日本と米国だって戦争をしたけれども、今や経済関係・文化関係・社会関係がこれだけ緊密になっている。今や日本の中で、米国と戦争という人もいないし、米国の中に、日本と戦争するという人もいない。そして繋ぐだけではなくて、お互いに民主主義の共有ができていれば、北東アジア、特に環日本海でそれが出来るように、日本としては不可能を可能に変えていくという努力をしていかなければならないと思います。
工藤:話が私の関心のテーマそのものになってしまったので、もう一言、言わせていただくと、日中平和友好条約なり、国交正常化後の日中の政治文書を見ても、「日本と中国は、この地域の平和と繁栄に責任を持つ」と書いている。
しかし、その後、そうした責任を日中両国は取っていない。そこで、まず、この地域の平和のためにトラック2で多国間の場を作ったのです。政治が協力してくれたら、これをさらに大きなものに発展させることが、できるのです。
お互いの"正義"を収めるにも冷静になれる場が必要
中山:責任を持つためには、さっきも申し上げたように、約束を反故にしない。きちんと言ったことは守ってもらう。それと不明瞭な予算、例えば軍事費とかですね、これは直してもらいたい。やはり、隣国に対して不信感を抱かせるような軍事的な行動が中国には非常に多いように思います。これは王毅外相が目の前にいようが、習近平さんがおられようが、私は別に、言うことを変えようとは思いません。
私は結婚していて、女房と私は仲が良いのですが、時たまけんかもします。夫婦喧嘩というのも、よく考えたら、夫の正義もあれば妻の正義もあるのです。ですから、二つの正義をどうやってうまく屋根の下に収めるか、というのが家庭円満の秘訣。それを国と国とで考えた場合、中国の正義はなんたるや、日本の正義はなんたるや、米国の正義はこうなのだというのを、お互いがきちんと説明をし合って、理解し合わないと、永遠にこの屋根の下の戦争というのは起こり続けてしまう。
それこそ、地球規模課題で考えると、私たちが共同で協調しながらやらなければならない課題というのがいっぱいあるわけです。そのための冷静になれる場だけはしっかりと設けておく、というのが必要なのではないかなと思います。
工藤:中山さん、結構本音で中国側とやっているでしょう。
中山:やっています。
工藤:ということは、日本は中国とは意見交換は出来ているということですね。
中山:自民党の外交部会で菅官房長官のところに習近平国家主席の訪日中止要請という決議を持っていった日も、その足で中国大使館のナンバーツーと二時間くらい議論しました。その時も本音でぶつかり合っています。
工藤:古川さん、これから日本は「中国とどう向き合っていけばよいか」という話です。どうでしょう。
正面から向き合って、言うべきことを言うというのが大事
古川:1924年ですか、孫文のいわゆる「大アジア主義演説」ですね。ここで孫文は言っていますよ。「日本は世界の文化に対して、西洋覇道の犬であるか。それとも、東洋王道の干城たるか。日本国民が慎重に考えるべきだ」と。これに対して、日本は聞く耳を持たずに、結局は孤立をして破滅したわけです。これは日本帝国主義に対する痛烈な批判なのですが、よく考えてみると、今の中国の覇権主義に対する鋭い警告のようにも思えるのですね。ここが大事です。中山さんが言った通りです。中国に対して、覇権主義はうまくないぞ、ということを直接に言うことだと僕は思います。
そういう意味で冷静さを失って、中国の脅威に対して過剰に反応して、これは日米同盟で封じ込めなければだめだ、ということだけになってしまうと、これは冷静な判断が出来なくなるわけです。やはり正面から向き合って、言うべきことを言うというのが大事だろうと思います。その時、日本は東洋の国ですから、例えば儒教的な文明観にしても、チャンネルがあるわけですよ。欧米社会にはない周波数帯を持っているわけですから、東洋においては力による覇道というのは蔑まれているわけです。やっぱり王道による徳治こそが支えられるものでありませんか、とそういう共通の価値観というのを持っているわけだから、それを腹に置きながら、きちんと正面から相対する。そして是々非々で対応していく、ということに尽きると思います。
工藤:最後の質問は、視聴者からのものです。「日本の国益を考える際に、政治、外交、日米同盟、軍事、海洋問題の中で、何を優先として中国と話し合いを進めるべきとお考えですか」との、問いかけです。
中国との議論で優先とされるのは、自由と民主主義、そして信頼
山口:民主主義です。相手が民主主義であれば、どれだけ軍備を持っていても気にならない。フランスがどれだけ軍備を持っていても、イギリスが持っていても、ドイツが持っていても気にならない。ただ、民主主義でない国が軍備を持っていると、ものすごく気になりますよね。そういう意味では、民主主義を共有できるように持っていけるかどうか。ここは一番の遠いゴールだけど、大事なゴールだと思います。
さっき古川さんが言われた覇道ではだめだ、ここが当面は一番大事です。彼らに言うと自分たちは覇道を認めていません、覇権は認めていません、と言うのだけれど、それを本当に共有できるところまで話を持っていかないとならない。これが、最初の課題だと思っています。
中山:信頼関係。要するに、コンテンツはあまり重要ではないと私は思います。それよりも、国家同士としての信頼関係というのは最終的に人と人だから、お互いがどれだけ喧嘩しても、トムとジェリーの関係でいようと、仲良く喧嘩しなさい、というお互いが奥行き、器というか、そういう幅がないとだめだと思うのです。お互いが出来るだけ大器晩成の大器になって、お互いが慎重にわきまえて話すというのは重要ではないでしょうか。
工藤:喧嘩しても仲が良い関係ですね。古川さん、最後にどうでしょう。
古川:僕はもう自由と民主主義ですね。今回は香港を見ていても、その向こうにウイグルもあればチベットもあるのです。自由というものを、他人が奪われようとしている時に、それを見て見ぬふりをするものは、いずれ己の自由も失うことになります。そういう切実な問題として、自由と民主主義というのは大事です。長い目で見て、あなた自身のためにも大事ですよ、ということを真摯に語り掛けるということだと思います。
工藤:今日の議論では米中の対立でどちらにつくかということだけではなく、日本としてどういう立ち位置で中国に向かい合うのか、という点で、日本の政治家がしっかりとした立ち位置をもっていることが分かりました。もちろん、日本国内での議論はまだまだ必要ですが、その第一歩は踏み出せたと思っています。
私たち言論NPOは中国と16年間、一度も中断せずに対話を行っていますが、政治家同士が本音で議論ができる場を、今年も実現しなくてはと思いました。
米中対立の中で世界やアジアのリスクが高まっている時だからこそ、対話が必要だと考えています。日本国内での議論を更に積み重ねながら、今年の11月末の日本と中国との対話につなげたいと思っております。今日はありがとうございました。
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